具体的には、自国の東に位置する西太平洋ではなく、西に目を向ける。ユーラシア大陸とインド洋に中国主導の安全保障・経済秩序を確立し、それと並行して国際機関で中心的な地位を占めることを目指すのだ。
このアプローチの土台を成すのは、世界のリーダーになるためには、軍事力よりも経済力と技術力のほうがはるかに重要だという認識だ。そうした発想に立てば、東アジアに勢力圏を築くことは、グローバルな超大国になるための前提条件ではない。西太平洋では軍事的バランスを維持するだけでよく、軍事以外の力を使って世界に君臨することを目指せばいい。
この道を歩む場合も、中国にとってアメリカが先例になり得る。第2次大戦後に形成されて冷戦後に強化された国際秩序でアメリカがリーダーの地位を確立できた背景には、3つの重要な要素があった。
1つは、経済力を政治的影響力に転換できたこと。もう1つは、どの国にも負けないイノベーション能力を維持できたこと。そしてもう1つは、主要な国際機関や制度をつくり、国際的行動に関する重要なルールを定める力を持っていたことだ。中国は第2の道を進む場合、この3つの要素を再現しようとするだろう。
そのためにはまず、「一帯一路」構想をユーラシアとアフリカ両大陸に広げる必要がある。加えて、デジタル版「一帯一路」とも言うべき「デジタル・シルクロード」構想の推進も重要だ。中国製の通信インフラを広く整備することで、習政権は17年の党大会で宣言した「サイバー超大国」への道に一歩を踏み出せる。
こうした攻めの対外経済政策に加え、国家主導で新技術の開発に巨額の投資を行うことで、中国は人工知能(AI)、量子コンピューター、バイオ技術といった最先端分野で優位に立てるだろう。
アメリカが自国の政治理念に基づいて第2次大戦後の主要な国際機関の設立を主導したように、中国も第2の道を進むなら、国際秩序の柱となる政治理念をつくり変えようとするだろう。中国が国連のあらゆる機関で自国の権益を守り、人権よりも国家の主権が重視されるよう全面攻撃を仕掛けていることは、多くの専門家が指摘しているとおりだ。
外国に対する世論操作や工作活動などの手段で自国に有利な状態をつくり出す「シャープパワー」戦略というフレーズは、近頃ではオーストラリア、ハンガリー、ザンビアなど民主主義国の政治的言説に影響を及ぼそうとする中国の強引な試みを表す言葉としてすっかり定着した。中国は各国にアメリカを上回る数の外交官を送り込むばかりか、金融や気候変動対策などのルール作りを担う国際機関で議論を主導するため執拗な働き掛けを行っている。