コラム

イ・チャンウォン、イム・ヨンウン... アジアの情感にじむ韓国音楽トロット、日本でもブレイクか

2024年06月27日(木)11時35分

トロット、日本との深い縁

トロットのひな型と言えるサウンドができたのは1930年代だ。当時の日本の(のちに演歌と呼ばれる)大衆歌謡を出発点にして、欧米のエッセンスや韓国特有の情感を加えながら時間をかけて熟成。やがて唯一無二のジャンルになった。なかでも独自性を見出せるのはリズムで、4分の4拍子もしくは2分の2拍子の社交ダンス=フォックストロットに大きな影響を受けている。"トロット"と呼ばれるようになったのはそのためだ。

そして2000年代に入るとアレンジの洗練化が加速。カラオケ店などで気軽に歌えるノリのいい軽めのトロットが愛されるようになり、こうした傾向が年を追うごとに強くなっていった結果、ブームと呼べる現在の状況になった。同時にトロットの定義は曖昧になり、ダンスミュージックが主流になる時代より前のポップスやフォークなどもトロットとみなす人が相当数いるという。

トロットは日本へ里帰りしブームを巻き起こすか?

実は昨年、そのような状況を反映した新たな形のオーディション番組が日本に上陸して、大きな話題を集めた。タイトルは「トロット・ガールズ・ジャパン」(以下、TGJ)。この番組は、韓国の多くの人たちがトロットを"かつて一世を風靡した歌謡史に残る名曲"と解釈している点に着目して企画されたもので、54組57名の出場者の中から、昭和・平成の名曲を未来へと歌い継ぐディーバを選考していく。


「トロット・ガールズ・ジャパン」の決勝ステージより TROT GIRLS JAPAN 公式 / YouTube


TGJの選抜メンバー(東亜樹、歌心りえ、かのうみゆ、住田愛子、natsuco、福田未来、MAKOTO.)は、今年に入ると韓国で高視聴率をあげた番組「日韓歌王戦」に出演。両国でファン層が拡大したおかげで、6月30日にはTGJの出演者たちによる東京公演を開催し、翌月には韓国でファンミーティングを行うなど、本放送終了後も勢いは衰えるどころか増すばかりといった感じである。


歌心りえは1995年に音楽ユニット「Letit go」のメンバーとしてデビュー、現在はソロとして活動をしているベテラン。 MBN MUSIC / YouTube


こうした流れを止めてはいけないと、韓国のトロットブームの火付け役となった前述の番組「明日はミスター・トロット」が、「ミスタートロット ジャパン」として日本に進出。"世代を超えて愛される懐メロに新たな生命を吹き込む、次世代の実力派男性ボーカリスト"を発掘するべく、現在出場者を募集中(7月31日まで)だ。優勝者になればメジャーデビューが約束され、本家の出身歌手とのコラボレーションも決まっている。同番組の放送によって日本におけるトロット人気がお茶の間レベルにまで浸透する可能性は十分にありそうだ。


賞金1000万円、メジャーデビューが約束されるというオーディション番組は、日本でもトロットブームを巻き起こすか? ミスタートロット ジャパン / YouTube


TGJの仕掛け人であるプロデューサーのチョン・チャンファンは次のように語っている。


「演歌から生まれたトロットが里帰りし、日本で一緒にそのオーディション番組をやることで、素晴らしい文化交流ができたと思います」(2024年5月2日付Yahoo!ニュース・田中久勝の執筆記事より)

着実に魅力が広まりつつあるトロット。このジャンルの盛り上がりは、日韓が理想的な関係を作るうえで重要な役割を果たすのではないかとひそかに期待している。

プロフィール

まつもとたくお

音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を始め、数々の専門誌・ウェブメディアに寄稿。2012年にはK-POP専門レーベル〈バンチョーレコード〉を立ち上げ、イ・ハンチョルやソヒといった実力派を紹介した。現在は『韓流ぴあ』『ジャズ批評』『ハングルッ! ナビ』などで連載。LOVE FMLuckyFM楽天ポッドキャストの番組に出演中。著書は『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)ほか。

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