コラム

新疆における「強制不妊手術」疑惑の真相

2021年06月24日(木)18時35分

表3:新疆の地区別の不妊手術と出生率

新疆では漢族が多く住む地域とウイグル族が多く住む地域はかなりはっきり分かれていて、ウルムチ、カラマイ、ハミなどは漢族が多く、新疆生産建設兵団の本拠である石河子に至るや漢族が95%を占める。一方、カシュガル、ホータン、アクスなど南疆はウイグル族がほとんどである。

表3では、女性の人口に対して、その年に不妊手術を受けた人が何パーセントいたかを示している。2015年と2016年には不妊手術が割とまんべんなく行われていて、ウイグル族集住地域での手術割合が特に高いともいえない。しかし、2017年と2018年の女性に対する不妊手術はウイグル族集住地区にきわめて偏っており、2017年には不妊手術総数の95%がホータンで、2018年はホータンで85%、アクスで12%が行われた。

2018年にはホータンの全女性の6.1%に相当する人々が不妊手術を受けており、同年の出生率の急落も明らかにそのためであろう。いったいホータンで何が起こっているのだろうか!?

新疆では1981年に漢族に対して出産制限が始まり、88年からはウイグル族など少数民族に対しても実施されるようになった。ただ、少数民族に対する制限は相対的に緩く、農牧民は子供を働き手として期待する傾向があるし、子供は天の授かりものと見なすイスラム教の影響も強かったので、1990年代でもウイグル族家庭では子供が6人も8人もいることがざらであった(買買提明、司馬義、2015)。

新疆の人口政策では、都市部の漢族は子供1人まで、都市部の少数民族は2人まで、少数民族の農牧民は子供3人まで、さらに配偶者と離婚したり死別するなど特殊な状況がある場合にはもう1人子供をもうけることが許されている。ホータンの場合、人口の87%は3人子政策の対象である。

ただ、ウイグル族が集住するホータン、カシュガル、クズルスなど南疆では、子供が多くてなかなか貧困から抜け出せない状況にあることから、自治区政府は2005年から農村での出産制限を強める方策を打ち出した(王、2009)。

すなわち、3人子政策が適用されている農村の少数民族夫妻が子供を二人もうけたところでストップすれば「計画出生父母光栄証」が与えられ、子供を一人もうけたところでストップすれば「一人っ子父母光栄証」を貰える。ストップするとは、「長期的な出生抑制措置をとること」とされているが、これはすなわち不妊手術を意味しているとみられる。

この光栄証は単なる賞状ではない。その父母には生涯にわたって1人あたり年間600元の年金が支給されるのである。また、光栄証を貰った家庭の子供は新疆の大学に進学する際に合格最低点を下げてくれるなどの優遇がある。年間600元というと、日本円で1万円ぐらいで、大した金額ではないと思われるかもしれないが、新疆の物価は北京や上海よりずっと低いので、貧困家庭にとってこれはけっこう魅力的な金額であるはずである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争でLNG需給激変、アジア新興国の需要抑制

ワールド

従来の貿易システム「失われた」 WTO事務局長、改

ビジネス

再送-仏ペルノ・リカール、ジャックダニエル製造元の

ワールド

ブラジル、原油高でインフレ率の目標超え続く見通し=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 3
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRANG』に託した想い、全14曲を【徹底分析】
  • 4
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 5
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 6
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 7
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 8
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    トランプが誤算? イラン攻撃延期の舞台裏、湾岸諸国…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story