爆発する中国のAIパワー
データが価値を生み出す源泉の一つに挙げられているのは、近年の人工知能(AI)の急速な発達と関係がある。AIの歴史はけっこう長いが、ながらく「ルールベース」と「神経ネットワーク」という二つのアプローチが併存していた(なお私はAIについてはズブの素人であり、大半の知識は李開復[Kai-fu Lee], AI Superpower: China, Silicon Valley, and the New World Order, 2018の受け売りであることをあらかじめお断りしておく)。
「ルールベース」とは「丸の上に小さな三角が二つあればそれは猫の顔だ」といった判断のルールを機械に学ばせようとするものである。一方、「神経ネットワーク」とは機械に大量の写真を見せて、どれが猫で、どれが猫でないかを教えることで、機械が新たな写真を見て猫であるかどうかを判断できるようにすることである。
2000年代半ばになって、神経ネットワークを訓練する画期的な方法が編み出された。これによって神経ネットワーク型のAIの方が良い成績を収めるようになった。このアプローチは深層学習と呼ばれ、今日のAIの主流となった。
深層学習を成功させるには、限定された領域の大量のデータ、優れたアルゴリズム(算法)、明確な目標を持つことが大事である。要するに、データはAIを賢くするためにAIに与えられるエサなのである。だからこそ、データが「生産要素」であるとか「21世紀の石油」だといわれているのだ。
データを生み出すライフスタイル
李開復は、5年後、つまり2023年頃には中国はAIの総合力でアメリカに追いつき、世界のAI超大国になるだろうと予想している。中国の強みは、AIを使って儲けてやろうとチャレンジする企業家が次から次へと現れてくること、そしてデータが豊富なことである。14億人の人口は、それだけでデータ量の優位を中国に与える。
しかも、近年の中国のライフスタイルは、ますます多くのデータを生み出すものへと変化している。
例えば、道路で手を振ってタクシーを止めて乗り、降りるときに現金で支払ったら、それはデータにならないが、ディーディー(滴滴出行)のようなライドシェアのアプリを使って車を呼び、支払いもアリペイなどのキャッシュレスで行えば、アプリのなかに、運転手と乗客の名前、乗った経路や時間、支払った額、さらには顧客満足度の評価まですべてデータとして残ることになる。
また、モバイクのシェア自転車を使えば、その都度どこからどこへ乗ったという経路図、支払った額、走行距離、さらには消費カロリーと削減した二酸化炭素排出までがアプリに記録される。
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