コラム

爆発する中国のAIパワー

2019年12月23日(月)17時15分

データが価値を生み出す源泉の一つに挙げられているのは、近年の人工知能(AI)の急速な発達と関係がある。AIの歴史はけっこう長いが、ながらく「ルールベース」と「神経ネットワーク」という二つのアプローチが併存していた(なお私はAIについてはズブの素人であり、大半の知識は李開復[Kai-fu Lee], AI Superpower: China, Silicon Valley, and the New World Order, 2018の受け売りであることをあらかじめお断りしておく)。

「ルールベース」とは「丸の上に小さな三角が二つあればそれは猫の顔だ」といった判断のルールを機械に学ばせようとするものである。一方、「神経ネットワーク」とは機械に大量の写真を見せて、どれが猫で、どれが猫でないかを教えることで、機械が新たな写真を見て猫であるかどうかを判断できるようにすることである。

2000年代半ばになって、神経ネットワークを訓練する画期的な方法が編み出された。これによって神経ネットワーク型のAIの方が良い成績を収めるようになった。このアプローチは深層学習と呼ばれ、今日のAIの主流となった。

深層学習を成功させるには、限定された領域の大量のデータ、優れたアルゴリズム(算法)、明確な目標を持つことが大事である。要するに、データはAIを賢くするためにAIに与えられるエサなのである。だからこそ、データが「生産要素」であるとか「21世紀の石油」だといわれているのだ。

データを生み出すライフスタイル

李開復は、5年後、つまり2023年頃には中国はAIの総合力でアメリカに追いつき、世界のAI超大国になるだろうと予想している。中国の強みは、AIを使って儲けてやろうとチャレンジする企業家が次から次へと現れてくること、そしてデータが豊富なことである。14億人の人口は、それだけでデータ量の優位を中国に与える。

しかも、近年の中国のライフスタイルは、ますます多くのデータを生み出すものへと変化している。

例えば、道路で手を振ってタクシーを止めて乗り、降りるときに現金で支払ったら、それはデータにならないが、ディーディー(滴滴出行)のようなライドシェアのアプリを使って車を呼び、支払いもアリペイなどのキャッシュレスで行えば、アプリのなかに、運転手と乗客の名前、乗った経路や時間、支払った額、さらには顧客満足度の評価まですべてデータとして残ることになる。

また、モバイクのシェア自転車を使えば、その都度どこからどこへ乗ったという経路図、支払った額、走行距離、さらには消費カロリーと削減した二酸化炭素排出までがアプリに記録される。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フィッチが仏国債格下げ、過去最低「Aプラス」 財政

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story