コラム

お金になりそこねた日本の「電子マネー」

2018年03月07日(水)13時20分


まず、電子マネーの媒体としてFeliCaではなく、QRコードなど低コストの媒体をもっと活用した方がよい。QRコードの場合、商店の側はQRコードを印刷したステッカーを貼っておくだけでも代金を受け取ることができるので、導入コストがFeliCaに比べ格段に低い。電子マネーが使われる場面がおおむね1万円以下の少額の支払いであることを考えると導入コストの低さはきわめて重要なポイントである。

ただ、QRコードにはリスクがあるという人もいる。たしかに、例えば悪人が商店の店頭に貼ってあるQRコードを別のものとすり替え、客が商店に支払う代金を騙し取ってしまうことができるかもしれない。

ただ、いずれの支払い手段にもリスクがあることを認識しなければならない。現金には紛失や盗難のリスクがあるし、磁気ストライプを使ったクレジットカードにはスキミングされるリスクがある。FeliCaを使った電子マネーはかざすだけで使えるので、紛失・盗難の際には他人に使われてしまうリスクがある。QRコードを使うスマホ・マネーはパスワードを入力しないとQRコードが表示されない仕組みになっているので、紛失や盗難には強い。
どのリスクが大きいかは国によって異なるので、各々の支払い手段を導入するコストと、その支払い手段が持つリスクとを天秤にかけながらその国にとっての最良の手段を選ぶことになる。

使う前に残高が表示される

また、QRコードを使ったスマホ・マネーには、FeliCaを使った電子マネーにはない機能もある。まず使おうとする時には残高が表示されるので、チャージ不足で使えないということが起こりにくい。友達に直接送金できる機能もある(金融業界ではこの機能を「モバイルP2P送金」と呼ぶらしい。淵田康之『キャッシュフリー経済』)。

これはなかなか便利で、大勢で食事した時に割り勘にするのに役に立つ。割り勘にした時に端数が出ると現金の場合難儀するが、スマホどうしで送金しあえば1円単位の端数でも平気である。

日本では、高額の支払いは銀行振込やクレジットカードで、少額の支払いは現金で、という分担が確立していて、スマホ・マネーや電子マネーが代替しうるとしたら後者の部分だが、治安と自動販売機の良さのおかげで、現金を持ち歩くのに余り不都合を感じない。

現金に慣れた人々を電子マネーに誘導するには、やはりもっと「お金」のようにどこでも使える電子マネーを誰かが作り出さなければならない。現状でそれに最も近いのは交通系ICカードだが、交通系は運営主体が鉄道会社であることとFeliCaを使っているため普及に限界があるようである。アメリカでは銀行口座を持たないような低所得層に対して政府が児童手当や年金、食糧費補助などを支給する時にプリペイドカードで支給しているという(淵田康之『キャッシュフリー経済』)が、そうした政府の関与も電子マネーを普及させるうえで有効であろう。

さらに、キャッシュレス化にコスト節約効果があるのだとすれば、その一部をインセンティブとして利用者に還元することが考えられる。これは現にJRがやっていて、切符を現金で買えば170円、電子マネーを使えば165円、というように電子マネー使用に若干のインセンティブをつけている。こういうことを電子マネーの利用全体に薄く広く行うことができればかなりの利用者を引き付けることができるだろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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