コラム

オーダーメイドのスーツを手頃な価格で――「マス・カスタマイゼーション」で伸びる中国のアパレルメーカー

2016年12月15日(木)16時46分

 報喜鳥集団は、消費者が体の寸法を測ってもらって生地やスタイルなどを選ぶというカスタム生産の側面と、工場での流れ作業によって効率的に生産する大量生産とを結合したマス・カスタマイゼーションを実践しています。

 報喜鳥集団には中国全土に1300余りの加盟店があり、そこにはお客さんの体のサイズを採寸する店員が配置されています。店には生地のサンプルとともに、iPad端末あるいは大型スクリーンがおいてあり、消費者が端末上で生地やスタイルを選ぶと、画面上にできあがった服のイメージが表示されます。

 お客さんが加盟店でおこなった注文が工場に入ってくると、工場ではお客さんのサイズや注文に合わせて自動裁断機を使って生地を一着分ずつ裁断します。裁断された生地は「知能ハンガー・システム」と称されるハンガーにぶら下げられ、ハンガーが工場内を動き回り、流れ作業によって服が作られていきます。報喜鳥集団の上海の子会社、上海宝鳥ではスウェーデンのイートン・システムズの知能ハンガー・システムが導入され、報喜鳥集団の温州工場ではINAという中国メーカーのシステムが使われていました。

仕様は無線でタグから端末へ

 この知能ハンガー・システムこそマス・カスタマイゼーションの心髄ともいうべき装置です。なぜなら各ハンガーにはICチップ(無線タグ)が埋め込まれており、そのチップに一着ごとの服の仕様が読み込まれているからです。ラインの作業者はそのチップに読み込まれた情報を手元にある端末に表示させ、それを見ながら一着ごとに異なる作業をします。

IMG_1133.jpg
報喜鳥集団の工場現況ボード Tomoo Marukawa

 工場内の電光掲示板(写真)では、注文された一着ごとに現在どの工程にあるかが表示されており、発注した人も自分の注文した服がどの段階にあるかを店で確認することができます。

 既製服を買うのに比べて、報喜鳥集団で実践しているマス・カスタマイゼーションの方法で服を作ってもらうメリットは、自分の体と好みにより適合した服を手に入れられることです。一方、作るメーカー側にとっても、既製服を見込み生産することによる作りすぎの無駄を減らすことができます。消費者にとってのデメリットは既製服より高価になる可能性があることですが、報喜鳥集団の場合、受注生産のスーツの最低価格は日本円換算で3万円程度なので、大量生産の低コストのメリットを余り犠牲にしていないことがわかります。マス・カスタマイゼーションのもう一つのデメリットは、服を買ったらすぐに持ち帰ることのできる既製服と違って一定の待ち時間があることです。報喜鳥集団ではリードタイムの短縮に努力してきたものの、注文を受けてから服が完成するまで7日間必要だとのことでした。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story