中国のイノベーション主導型成長が始まった
新技術・新製品がイノベーションとイコールではない、ということを携帯電話やスマホを使った代金決済という例を使って説明しましょう。
日本では2004~2005年に携帯電話の3大キャリアによって「おサイフケータイ」というサービスが始まりました。これはソニーが開発した非接触ICカード「FeliCa」を携帯電話のなかに入れることによって携帯電話を電子マネーやクレジットカードとして利用する仕組みで、導入された当初はイノベーティブな試みとして世界から注目されました。当時まだ新しかったFeliCaを携帯電話に入れるというのはまさに世界に先例のない新技術でした。
「おサイフケータイ」を使えるようにするためには、商店や自動販売機でICカードの情報を読みとる端末を備えておく必要があるので、NTTドコモがコンビニや自動販売機業界に働きかけ、社会全体でかなりの投資が行われることで「おサイフケータイ」が使える環境が整いました。私も導入当初は物珍しさもあって、携帯電話にSuicaのアプリを入れて使っていました。
しかし、導入から10年が経過したいま、「おサイフケータイ」は日本社会を変えたでしょうか。むしろ忘れ去られたといったほうが近くないですか。2015年秋に東京大学の1年生を対象とした授業を行った際に、携帯電話・スマホをどのように利用しているかアンケートを行ってみました。「おサイフケータイ」の使用頻度についても尋ねてみたのですが、まったく使わないと回答したのが122人の回答者のうち96%、ごくたまに使うが1.6%(2人)、ある程度以上使うという学生はたった2.4%(3人)でした。
実際、東京の街中で人が携帯電話やスマホをかざしてものを買ったり、改札を通るのを目にする機会は年々減っている気がします。「おサイフケータイ」はまぎれもなく新技術でしたが、新しい市場を形成することには失敗しました。それゆえ「おサイフケータイ」をイノベーションと呼ぶことはできません。
一方、中国では最近スマホを使ってさまざまな代金を支払えるようになりました。ネット小売業のアリババが運営する「支付宝(アリペイ)」と、中国最大のSNS「微信」をやっているテンセントが運営する「微信支付(ウィーチャット・ペイメント)」が代表的です。
いずれも銀行の預金口座からネット上の口座にお金を移しておいて、それを主にインターネットでの買い物に使うものですが、画面に二次元バーコードを表示したり、販売店が提示する二次元バーコードを読み取ることによって電子マネーのように使うこともできます。
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