コラム

中国のイノベーション主導型成長が始まった

2016年06月22日(水)16時42分

 新技術・新製品がイノベーションとイコールではない、ということを携帯電話やスマホを使った代金決済という例を使って説明しましょう。

 日本では2004~2005年に携帯電話の3大キャリアによって「おサイフケータイ」というサービスが始まりました。これはソニーが開発した非接触ICカード「FeliCa」を携帯電話のなかに入れることによって携帯電話を電子マネーやクレジットカードとして利用する仕組みで、導入された当初はイノベーティブな試みとして世界から注目されました。当時まだ新しかったFeliCaを携帯電話に入れるというのはまさに世界に先例のない新技術でした。

「おサイフケータイ」を使えるようにするためには、商店や自動販売機でICカードの情報を読みとる端末を備えておく必要があるので、NTTドコモがコンビニや自動販売機業界に働きかけ、社会全体でかなりの投資が行われることで「おサイフケータイ」が使える環境が整いました。私も導入当初は物珍しさもあって、携帯電話にSuicaのアプリを入れて使っていました。

 しかし、導入から10年が経過したいま、「おサイフケータイ」は日本社会を変えたでしょうか。むしろ忘れ去られたといったほうが近くないですか。2015年秋に東京大学の1年生を対象とした授業を行った際に、携帯電話・スマホをどのように利用しているかアンケートを行ってみました。「おサイフケータイ」の使用頻度についても尋ねてみたのですが、まったく使わないと回答したのが122人の回答者のうち96%、ごくたまに使うが1.6%(2人)、ある程度以上使うという学生はたった2.4%(3人)でした。

 実際、東京の街中で人が携帯電話やスマホをかざしてものを買ったり、改札を通るのを目にする機会は年々減っている気がします。「おサイフケータイ」はまぎれもなく新技術でしたが、新しい市場を形成することには失敗しました。それゆえ「おサイフケータイ」をイノベーションと呼ぶことはできません。

 一方、中国では最近スマホを使ってさまざまな代金を支払えるようになりました。ネット小売業のアリババが運営する「支付宝(アリペイ)」と、中国最大のSNS「微信」をやっているテンセントが運営する「微信支付(ウィーチャット・ペイメント)」が代表的です。

 いずれも銀行の預金口座からネット上の口座にお金を移しておいて、それを主にインターネットでの買い物に使うものですが、画面に二次元バーコードを表示したり、販売店が提示する二次元バーコードを読み取ることによって電子マネーのように使うこともできます。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク

ワールド

北朝鮮抑止「韓国が主な責任」、米国防総省が関与縮小

ワールド

トランプ政権のEVインフラ助成金停止は違法、米地裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 8
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 9
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 10
    3年以内に日本からインドカレー店が消えるかも...日…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 10
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story