コラム

女性の半数が「夫は外、妻は家庭」と思っているのに、一億総活躍をどう実現するのか

2016年08月30日(火)11時02分

「母親の影響」だけでは時代にあった価値観を培えない

 先ほどご紹介した「女性×働く」調査では、女性の約半数は、自分の働き方意識について、「母親の影響を受けている」と答えていた。専業主婦を母親に持つ女性が母親と同じように専業主婦になりたいと思う場合も、その逆もあるだろう。しかし、母親の価値観は必ずしも、これからの時代にあった価値観とは限らず、家庭の中だけで「仕事価値観」を育成するのは望ましくない。就職前の教育課程および、社会全体において、様々な働く女性とその生き方に触れ、学ぶ機会をいかに創出していけるかがポイントとなるだろう。

【参考記事】日本は世界一「夫が家事をしない」国

 先日、3歳の娘を週末の仕事に連れていった。途中からグズり、連れて行ったことを後悔した。しかし、帰宅後、仕事相手の大学准教授から届いたメールで明るい兆しを感じた。「自分の幼少期の記憶を辿ってみて、大人の議論(?)に参加した時には、とてもスペシャルな気分になったことを思い出しました!母に感謝です。」というものだった。この准教授の中には、働く魅力的な大人の姿が原体験としてあり、それ故、大人になった今もポジティブな「仕事価値観」が根付いているのだろう。

 子育てをしながら働く女性にとって、仕事先に子どもを連れて行くことは、なるべく避けたいことだ。しかし、日々の子育ての中で子どもに対し、働く親の姿をしっかりと見せてあげる。自分以外の働く大人との接点を意識的にたくさん作ってあげる。社会も、職場を大人だけの場として閉ざさず、子ども達を受け入れ、楽しそうに働く姿を見せてあげる。――そのような風景が日常的なものとなれば、次世代を担う子ども達が大人になる頃には、ポジティブな「仕事価値観」が浸透し、女性が働き続けることが当たり前になっているはずだ。

 昨今の「女性活躍推進」では、制度改革や女性の管理職育成等、目の前の対策に注目が集まっている。しかし、長期的視点に立って、就業前段階の女性の「仕事価値観の育成」にもっと目を向けた方がよい。そのような視点こそ、少子高齢化を抱える日本の「女性活躍推進」にとって大切である。

注1:2014年は「女性の活躍推進に関する世論調査」に名称変更された。それ以前は「男女共同参画に関する世論調査」。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方は、2002年に初めて「反対」が「賛成」を上回った。その後、震災の影響を受けたとみられる2012年調査を除けば、「反対」が「賛成」を上回り続けており、「反対」は5割前後、「賛成」も4割以上で、両意見は拮抗している。

プロフィール

古平陽子

株式会社電通 電通総研 主任研究員

2000年入社。マーケティング・プランニング部門を経て、現在は電通総研にて生活者・トレンド研究に従事。「女性/ママ/家族」「次世代育成」を専門領域とし、インサイト開発からプランニングまでを行う。財務総合政策研究所「女性の活躍に関する研究会―多様性を踏まえた検討―」に委員として参画。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story