コラム

「菅内閣の支持率急落」を正しく読み解く

2021年05月18日(火)17時48分

5月に入って立て続けに菅内閣の支持率低下が報じられたが Newsweek Japan

<報道各社の世論調査で菅内閣の支持率が急落した。新型コロナ対策が泥縄式に陥っていることへの国民の不満の発露だ。ワクチン接種が進めば支持率回復の希望もあるが、それでも東京五輪開催というメガトン級の難題が待つ>

菅内閣の支持率が「急落」したとするニュースが相次いでいる。朝日新聞は「内閣支持33%に急落」、時事通信は「内閣支持32.2%、発足後最低」と伝えている。FNN・産経新聞の最新調査では支持率は43.0%あるが、前回(4月)と比べると9.3ポイントも減少しており、不支持率は10.9ポイント増加して52.8%となっている。

果たして菅政権の「潮目」が変わったのだろうか。

各社共通して言えるのは、「不支持率が支持率を逆転」していることであり、個別の調査結果からは「新型コロナ対策への不満」が背景にあることが分かる。4月23日に発令された3度目の緊急事態宣言は、5月11日までとされていた終了時期が5月末までに延長され、愛知、福岡に続いて、16日からは北海道、岡山、広島も対象地域に追加された。

五月雨式に行動規制が全国規模で拡大されている状況だ。感染力が強い変異株を水際で阻止するために4月段階で必要性が指摘されていた「インド等からの入国拒否」も14日にようやく始まったばかり。ワクチン接種体制も含めて、あらゆるコロナ対策が後手後手にまわっている印象が否めない。

これを、危機管理における政権の失策と見るのか、厚労省をはじめとする政府全体の機能劣化または機能不全と見るのか、あるいは誰がやっても同じであり、むしろその中で菅政権はベストを尽くしていると見るのかは、人によって評価が異なるであろう。

しかし、内閣府が18日に発表した2021年1~3月期の実質GDP速報値は前期比1.3%減、年率換算で5.1%減だ。3四半期ぶりのマイナス成長で、2度目の緊急事態宣言(1月8日から3月21日)の影響が深刻であることが伺われる。同時に発表された2020年度の実質成長率は4.6%減で、リーマン危機時を上回る。

つまり、コロナ禍にあって、感染拡大を抑え込むために「緊急事態宣言やまん延等防止措置を導入」せざるを得ないとして、そうすると「経済が冷え込む」ことは明らかであり、そのようなジレンマに直面するがゆえに、政権としては人々の行動規制や営業自粛要請という措置を「小出し」にせざるを得ない。ところがそうすることによって、かえって国民の間で不安や疲労が蓄積され、政権に対する厳しい目が増大し、支持率が低下する----。このような矛盾の波に菅政権はいま揉まれている。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story