コラム

千葉県知事選挙でなぜ自民は衝撃的敗北を喫したのか

2021年03月24日(水)20時00分

当選が決まった後、支持者に挨拶する熊谷俊人氏 くまがい俊人公式チャンネルYouTubeより

<千葉県知事選で熊谷俊人氏が自民系候補に100万票の大差を付け圧勝した。政党支持率で今も圧倒的な自民党がなぜ敗れたのか。選挙結果の分析から見えてくる、来たるべき総選挙への影響>

3月21日投開票の千葉県知事選挙で、熊谷俊人・前千葉市長が約140万票を獲得し当選した。自民党推薦候補の関政幸・前千葉県議に約100万票差をつけた圧勝だ。同時に行われた千葉市長選挙でも、副市長として熊谷市政を支えてきた神谷俊一氏が当選した。

熊谷氏の獲得した約140万票は史上最多票数だが、これまでの千葉県知事選挙の中で100万票近い差がついた前例はある。2013年の知事選挙で森田健作候補が約123万票を獲得、次点の三輪定宣候補(共産党推薦)に対して約94万票の差をつけている。しかしこの選挙は、現職知事だった森田健作氏2期目の信任投票という意味合いが強く、大差で再選を果たすことは織り込み済みの選挙だった。

今回の選挙で勝ったのは新人の非自民系候補だ。4月25日の衆参補選と今秋までの解散総選挙を控える政権与党にとって、「100万票差」のインパクトは大きいだろう。

メディアによる出口調査などを踏まえると、自民党支持層の6割が熊谷氏に投票、今回の選挙は自主投票とした公明党支持層も6割が熊谷氏に投票した傾向が伺われる。自民党推薦候補が支持基盤の票を取りこぼしたのだ。

国政での政党支持率は、最新の各社世論調査によると、自民党がおおむね約3割から4割前後であるのに対して、野党の立憲民主党は、国民民主党、社民党の数値を仮に合算したとしても1割に満たない水準だ。

つまり、中央政界での与野党の顕著な「実力差」が千葉では再現されなかったのだ。それはなぜであろうか。

新しい千葉の「顔」に見事にハマった

1つは、昨年来のコロナ禍で、感染防止対策の陣頭指揮に立つ知事の「顔」が平時に増して重視されるようになっていたことだ。そうした危機時における千葉の新しいリーダーの「顔」として、熊谷氏が見事にハマった感がある。

小池百合子東京都知事、吉村洋文大阪府知事、鈴木直道北海道知事や首都圏などの各知事がコロナ禍で度々メディアに登場し、感染症対策の最前線に立つ姿が報じられてきた。

緊急事態宣言や飲食店などの時短要請で国民の不満が鬱積する中で、党派性とは別に、政権に対して堂々と意見を述べる知事の存在感が増している。実務的な手腕への信頼性や期待だけでなく、市民に丁寧に説明する能力があるか、「メディア映え」する存在であるかどうかも知事選択の重要な基準になっているのだ。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story