コラム

「50年ぶり」にアメリカからパンダがいなくなる...中国「パンダ外交」の歴史的転換は何を物語るか

2023年11月09日(木)17時43分

パンダ外交の始まりは日中戦争

中国の「パンダ外交」は日中戦争期、中国国民党指導者、蒋介石の妻、宋美齢が米国に2頭を贈ったのが始まり。対米宣伝工作を担当する宋美齢は、パンダ贈呈で中国のイメージアップを図り、米国を味方につけるのが目的だった。自然保護の英専門家ポール・ジェプソン博士らがパンダ贈呈について分析した結果、08年の四川省大地震後までで3期に分類できた。

(1)1937~83年、日中戦争と冷戦
蒋介石時代に続いて中国共産党の毛沢東時代も戦略的な関係を強化するため57年、ソ連にパンダを贈呈。北朝鮮にも贈られている。リチャード・ニクソン米大統領(当時)の電撃訪中に合わせて72年、シンシンとリンリンがスミソニアン国立動物園に贈呈された。日本でもカンカン、ランランが空前のパンダブームを巻き起こす。

(2)84~2007年、鄧小平の開放政策
1984年、絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)でパンダは附属書1(今すでに絶滅する危険性がある生き物)に格上げされ、基本的に商業目的の取引は禁止される。パンダの貸与を開始。鄧小平が開放政策を進めたため、パンダ外交も地政学重視から市場としての重要性に軸足を移す。

(3)2008年~四川大地震後
四川大地震でパンダの生息地の5.9%が破壊され、67%が影響を受けたため、パンダ外交の対象も絞られる。

ジェプソン博士によると、パンダ外交の第3期は自由貿易協定(FTA)で合意しているか、価値ある資源や技術を中国に提供している国に限定されている。大切なポイントは現在、何頭いるかではなく、パンダがどれだけ中国からやって来たり、帰国したりしているかだという。

ジェプソン博士は中国語で互いに利益を享受できる関係を意味する「グァンシー」に注目する。10年には米国生まれのパンダ2頭が送還されたが、その直前、バラク・オバマ米大統領(当時)はチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談すれば対中関係を損なうと警告されていた。

パンダが中国に送還されたり、待てど暮らせどやって来なかったりする背景にはグァンシーの問題もあるようだ。しかし米中対立が深まる中でパンダ外交も新たな第4期に入ったのかもしれない。

ニューズウィーク日本版 「外国人問題」徹底研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「『外国人問題』徹底研究」特集。「外国人問題」は事実か錯覚か。移民/不動産/留学生/観光客/参政権/社会保障/治安――7つの争点を国際比較で大激論

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベセント米財務長官、インドに対する追加関税撤廃の可

ワールド

米、嵐で16万戸超が停電・数千便が欠航 異常な低温

ワールド

市場の投機的、異常な動きには打つべき手を打っていく

ワールド

米ミネアポリスで連邦捜査官が市民射殺 移民取り締ま
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 8
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 9
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story