コラム

ガザ攻撃めぐり、欧米で「親イスラエルvs親パレスチナ」の対立激化...EUは難民危機の再来に戦々恐々

2023年10月17日(火)19時49分

米大学ではイスラエル人学生が棒で殴られる?

米非営利団体NPR (公共ラジオ放送)によると、イスラエル・ハマス戦争は全米の大学キャンパスで緊張を高めている。「イスラエルにすべての暴力の全責任がある」とするハーバード大学パレスチナ連帯委員会の書簡に数十の学生団体が署名したところ、学生、教授陣、著名な卒業生、政治家、さらには学長が反発した。

「イスラエルはこの甚大な人命の損失に対して全責任を負う」というニューヨーク大学学生弁護士会会長の書簡が瞬く間に拡散し、非難にさらされた。学生グループによる集会や抗議行動も行われ、親イスラエル派と親パレスチナ派が直接対立するケースもあった。コロンビア大学ではイスラエル人学生が棒で殴られたとみられる事件が起きている。

英紙フィナンシャル・タイムズのヘンリー・フォイ・ブリュッセル支局長は「イスラエルは民間人を中心に1400人以上のイスラエル人を殺害した攻撃に対する報復としてハマスの『抹殺』を宣言した。公の場ではイスラエル支持を表明しているものの、西側指導者の多くは230万人を脅かすガザへの全面侵攻を避けるよう内々に求めている」と解説する。

同支局長によると、EUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長はEU首脳からの委任を受けることなくイスラエルでベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談した。フォンデアライエン氏は「イスラエルがどのように対応するかで民主主義国家であることが示される」と表明したが、イスラエルの報復が国際法に適合するよう求める内容は含まれていなかった。

「ウクライナ戦争にどう対応するかという点でEUは一致しているが、イスラエル・パレスチナ問題は常に複雑だ。パレスチナ人に対する『集団的懲罰』に警告を発したアイルランド、イスラエルのガザ避難要請は国際法に反すると述べたスペインはフォンデアライエン氏やドイツ、オーストリア、チェコよりはるかに慎重だ」(フォイ支局長)

イスラエル・ハマス戦争が収束せず地域に拡大すれば100万人を超える難民がEU域内に押し寄せた2015年の欧州難民危機の悪夢が繰り返される恐れがある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は予想下回る3900億元

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小

ビジネス

ECB、大手110行に地政学リスクの検証要請へ

ワールド

香港の高層住宅火災、9カ月以内に独立調査終了=行政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story