コラム

9日にプーチン勝利宣言? ゼレンスキー「それでもマリウポリは絶対に陥落しない」

2022年05月07日(土)16時06分

救国の英雄になったゼレンスキー氏にとって「祖国防衛戦争」のゴールはどこなのか。クリミアがロシアに併合され、東部ドンバスが親露派に占拠されていた2月23日以前の状態を回復するだけで十分なのか。ゼレンスキー氏は「私はウクライナの大統領として選ばれた。『ミニウクライナ』の大統領ではない。これは非常に大切なポイントだ」と強調した。

「ウクライナにとって戦闘を止める最低条件は2月23日時点の状況を取り戻すことだ。ロシア軍がその時点まで部隊を撤退させて、初めて正常化に向けた話し合いが始まる」

しかしゼレンスキー氏を全面的に支援する米英両政府は全ウクライナ領土からのロシア軍撤退とプーチン氏の敗北を勝利と位置付け始めた。勝利のハードルを高めれば、戦争は必然的に長期化し、すりつぶすようにロシア軍だけでなく、ウクライナ側の損害も拡大する。

「独首相には対独戦勝記念日の5月9日にキーウに来てほしい」

ゼレンスキー氏はしかし、「米英両政府のそうした発言を心配していない。道筋がダイレクトになればウクライナ社会にとってもロシア社会にとっても分かりやすくなる。ある人にとって勝利とはプーチンの敗北だ。ウクライナ国民の大多数もそう考えている」と毅然とした表情で語った。

「私にとっての勝利とは戦争で祖国を去らなければならなかった500万人が帰国してウクライナ経済が回復することだ。西側諸国にはウクライナで起きていることを理解して、ロシアのプロパガンダに惑わされないようわが国の痛みを共有してほしい。私やウクライナにとって勝利とは欧州連合(EU)加盟を認められることだ」と力を込めた。

ウクライナへの武器供与を決めながら、ロシア産天然ガス依存症を断ち切れないEU主要国ドイツのオラフ・ショルツ首相に対して、ゼレンスキー氏は「両手を挙げてわが国に招待する。対独戦勝記念日の5月9日にキーウに来てくれたらショルツ氏は政治的に非常に強力なステップを示すことになる」と呼びかけた。

ウクライナの駐ドイツ大使が、キーウを訪問していないショルツ氏を「不機嫌なレバーソーセージ」と呼んで非難したばかり。ウクライナとドイツの関係は、バルト海を通ってロシアとドイツを直結する天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」問題からこじれにこじれている。

一方、ポーランドやバルト三国の大統領とともに4月にキーウを訪れる方針だったものの「望まれていない」として訪問を断念したフランク=ヴァルター・シュタインマイヤー独大統領についても、ゼレンスキー氏は5日に電話してキーウに招待した。その際、シュルツ氏も招待したという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story