コラム

実は効いていない「ロシア制裁」...巨大な「抜け穴」とは? 元米財務長官が指摘

2022年04月12日(火)12時32分
ローレンス・サマーズ

ローレンス・サマーズ元米財務長官 Ruben Sprich-REUTERS

<ロシアに圧力をかけるには、「抜け穴を塞ぐためにロシア産原油・天然ガスの輸入を禁止すべき」。サマーズ元財務長官が説く世界経済の論点>

[ロンドン発]元米財務長官でハーバード大学のローレンス・サマーズ名誉学長が11日、ZOOMを通じて英有力シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)の討論に参加し、ウクライナに侵攻したロシアへの制裁、エネルギー価格の高騰、インフレ、膨張する債務、気候変動などについて縦横無尽に語った。

米欧が結束して対ロシア制裁を発動したことについて、サマーズ氏は「世界秩序が激変する可能性を予感させた。多国間主義以上に、これまでの制裁のスピードと範囲、レベルに感心した。その一方で、この制裁は戦争の一部なのか、罰としての意思表示なのかという現実的な問題がある」と指摘した。

「ロシア中央銀行に対する制裁にもかかわらず、急落したルーブルは戦争前の状態に戻している。ロシア政府がエネルギーの代金としてドルを受け取っているからだ。制裁が求められるレベルまでロシアに苦痛と圧力を与えているとは思えない。ロシア産原油・天然ガスの輸入を断つべきだ。そうしないと制裁に大きな抜け穴ができてしまう」との懸念を示した。

「国際秩序を守るためにウクライナ市民が払っている犠牲は私たちの何十倍も大きい。西側に求められている制裁も前の世代が払った犠牲に比べると相対的に小さい。ロシアへの制裁やウクライナへの武器供与が強化されることを私は望んでいる。ウラジーミル・プーチン露大統領の戦争犯罪を問うこと以上にこの戦争での大きな勝利はない」

220412kmr_ess02.png

ローレンス・サマーズ氏(筆者がスクリーンショット)

「大砲もバターも」の時代との類似点

国際エネルギー機関(IEA)は高騰する原油価格を安定させるためアメリカ6055万9千バレル、日本1500万バレル、韓国723万バレルなど石油備蓄計1億2千万バレルを半年にわたり協調して放出する。アメリカは単独でも1億2千万バレルを放出し、全体の放出量は過去最大規模の計2億4千万バレルにのぼる見込みだ。日本が国家備蓄を放出するのは初めて。

サマーズ氏は「ゼロコロナ政策をとる中国の都市封鎖は1カ月前に想像していたよりもさらに広がり、より長い期間必要となるかもしれない。危機の重要な教訓は、過去に何をしたかを基準にするのではなく、いま何が求められているかだ。ロシアの金融をパニックに陥れ、破壊的な打撃を経済に与えるためにできることはまだあるはずだ」と強調する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米最高裁、クックFRB理事解任訴訟で来年1月21日

ビジネス

インドCPI、10月は過去最低の+0.25%に縮小

ビジネス

カナダ中銀、物価上昇率の振れ幅考慮し情勢判断=議事

ワールド

FRB議長に選ばれなくても現職にとどまる=米NEC
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story