コラム

日本が得意とする「メルトダウンしない小型原子炉」の開発で先駆ける世界

2022年02月12日(土)21時44分

Uバッテリーの高温ガス炉の実物大モックアップ。上部の赤いラインまで地中に埋められる(筆者撮影)

<「メルトダウンを起こさない」安全な小型原子炉「高温ガス炉」が脚光を浴びている。イギリスでその開発最前線を取材した>

[ロンドン発]世界中が今世紀半ばの二酸化炭素(CO2)排出量「実質ゼロ」を目指す中、福島原発事故のようなメルトダウン(炉心溶融)を起こさない安全な小型原子炉「高温ガス炉」に熱い視線が注がれている。米欧、カナダ、中国、韓国、インドネシア、カザフスタンで計画が進む中、技術的に世界をリードする日本は福島のトラウマを克服できるかが問われている。

10日、ロンドンから車で北に約2時間半の英イングランド中部レスターシャーにある原子力エンジニアリング・サービス会社キャベンディッシュ・ニュークリアの工場を訪れた。同社と英ウラン濃縮企業ユレンコのスピンオフ企業であるUバッテリーが英ビジネス・エネルギー・産業戦略省のプログラムの一環として共同開発する高温ガス炉の実物大モックアップを見学するためだ。両社は2028年にイギリスかカナダで実証炉の運転開始を目指している。

安全な三重被覆(トリソ)燃料

高温ガス炉は「次世代」と呼ばれるものの、決して新しい技術ではない。1960~80年代に英米独で開発が進められたが、「小型より大型の方が、原子炉の熱効率が格段に良い」(キャベンディッシュ・ニュークリア社のリー・ウィットワース氏)ため、加圧水型炉(PWR)のような大型原発が普及した。しかし福島事故で熱効率より安全性が重視されるようになり、リスクを最小限に抑えられる小型の高温ガス炉に再び注目が集まっている。

高温ガス炉には、中心部の核燃料を低密度の熱分解炭素、次に炭素ケイ素、そして高密度の熱分解炭素で覆った「三重被覆(トリソ)燃料」(直径0.92ミリメートル)を黒鉛母材と一緒に焼き固めた円筒形の燃料コンパクト(直径26ミリメートル、高さ39ミリメートル)を使用する。核燃料の一つひとつが「制御棒」に包まれたような構造のトリソ燃料に高い安全性の秘密がある。

摂氏1600度になっても大丈夫

福島事故では全電源喪失で原子炉に冷却水を注入できなくなり、空焚きによるメルトダウンが起きた。冷却材にヘリウムガスを使う高温ガス炉では「配管が破損してヘリウムガスがなくなると核燃料のウランの温度は摂氏1100度まで上昇するが、最大1600度まで耐えられるので全く問題ない」(Uバッテリーのゼネラルマネジャー、スティーブ・スレルフォール氏)という。

高温ガス炉の実験はイギリスやアメリカ、ドイツでは1990年までに打ち切られ、今では実際に研究炉や実証炉を持つ日本と中国が世界の先頭を走る。日本原子力研究開発機構は今年1月、国際共同研究プロジェクトとして高温ガス炉のHTTR(熱出力600メガワット、茨城県大洗町)で炉心冷却喪失試験を行った結果、自然に出力が低下し、高い「固有の安全性」を確認した。原子炉に発生した危険が外からの操作なしに、それ自体の構造により抑制された。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB当局者、来年利下げは1回が中心 幅広く意見分

ビジネス

米FOMC声明全文

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRBが3会合連続で0.25%利下げ、反対3票 緩
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story