コラム

ロシアのウクライナ侵攻6つのシナリオ

2022年01月19日(水)22時42分
プーチン

プーチンがギャンブルに打って出る可能性はある Sputnik/Aleksey Nikolskyi/Kremlin/REUTERS

<ベラルーシに部隊を展開したことでロシア軍は北からも東からも南からもウクライナを攻撃できるようになった。米欧は支援に及び腰でプーチンには付け入るスキだらけ>

[ロンドン発]ウクライナ国境に10万人の部隊を展開するロシア軍が2月中旬に行う合同軍事演習のため同盟国ベラルーシに部隊を送り、米欧とロシアの間の緊張が一段と高まっている。2月9日にはベラルーシでの武器や兵員の配置は終わるという。ウクライナ政府はベラルーシを含む複数ルートでロシア軍は攻撃できると警戒を強めている。

米ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は18日の記者会見で、ウクライナ情勢について「極めて危険だ。ロシアがいつウクライナに攻め込んできてもおかしくない状況にあるが、アントニー・ブリンケン米国務長官は外交の道筋があることをロシア側に明確にするつもりだ」と危機感を募らせた。

ブリンケン氏は19日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した後、ベルリンで欧州の同盟国と対応を協議し、21日にジュネーブでロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談、危機打開のため協議する予定だ。ブリンケン氏はこれに先立ちラブロフ氏と電話会談し「緊張緩和のための外交路線を継続する」重要性を強調した。

ロシアはベラルーシとの合同軍事演習のため東部軍管区の部隊のほか、Su(スホイ)35長距離多用途戦闘機12機と地対空ミサイルシステムS400などを配備する。米ABCによると、ロシアのアレクサンドル・フォミン国防副大臣は「ベラルーシとの間で、共同防衛のためすべての軍事的潜在力を活用する必要があるという理解に達した」と述べた。

ロシアの核兵器受け入れも匂わせるベラルーシ

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は市民弾圧、同国上空を飛行中の旅客機を強制着陸させた事件、難民を欧州連合(EU)加盟国に追いやった問題で、米欧から資産凍結などの制裁を受けて、ロシアとの関係を強化した。北大西洋条約機構(NATO)がポーランドに核兵器を配備すればロシアの核兵器を受け入れるとも明言している。

ベラルーシに部隊を展開したことでロシア軍は北からも東からも南からもウクライナを攻撃できるようになった。ウクライナ国防省は24万6千人の軍を増強するため13万人を迅速に配備できるよう予備大隊の編成を加速させた。一方、イギリスは対戦車兵器をウクライナに供与し、訓練要員として約100人を派遣。カナダも小規模な特殊部隊をキエフに配備した。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が掲げる目標はNATOの東方拡大を逆回転させ、欧州に配備されたアメリカの核兵器を撤去させることだ。しかし米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書『ロシアのウクライナ侵攻シナリオ』は、実際のゴールはもっと低いかもしれないと指摘する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story