コラム

コロナ再流行、ワクチン接種義務化の是非をめぐり暴動が吹き荒れる欧州

2021年11月22日(月)16時13分

ブースター接種と自主的なコロナ対策でしのぐイギリス

一方、法的なコロナ対策を完全に取り払ったイギリスでは1日当たり百数十人の死者と1千人未満の入院者が出る状態が続いている。ブースター(3回目)接種を受けた50歳以上で発症の予防効果は93.1~94%に達しているため、今のところ、欧州大陸のようなロックダウンやワクチンパスポートを導入する必要性はないという。

英ウォーリック大学のローレンス・ヤング教授(ウイルス学)は「コロナを抑制するにはワクチンが大きな役割を果たすが、感染者の増加を防ぐには他の介入が必要だ。マスク着用率の低下、寒さによる屋内での活動の増加、免疫力の低下が欧州での感染増につながっている」と分析する。

「英イングランドでの感染者数や入院者数がさらに増加するようであれば、ワクチンパスポートを導入するとともに、風通しの悪い屋内でのマスク着用を義務付けることで感染を制限するしかない。50歳以上や基礎疾患のある人へのブースター接種とともにその他の介入措置を実施すれば、この冬を乗り切る助けになる」という。

日本では戦後、感染症の犠牲者が多数発生し、百日せき、腸チフスなど12疾病を対象に罰則付きの接種が義務付けられた。しかし予防接種による健康被害が社会問題化し、1976年に罰則なしの義務接種に移行した。予防接種禍訴訟で国の敗訴が相次ぎ、94年の予防接種法改正法で義務規定は努力義務規定となり、「社会防衛」から「個人防衛」に軸足を移した。

その後、日本は「ワクチン後進国」になり、2013年、子宮頸がんなどを引き起こすヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンの悪影響の恐れが報じられた結果、70%もあった接種率が1%に低下する事件が起きた。この結果、少なくとも2万4600件の子宮頸がん症例と5千人の死亡例が増える恐れがあるという研究結果も報告されている。

コロナワクチンもごくまれに出る深刻な副反応で死亡に至るケースがある。ワクチンパスポートによって事実上、接種を強制することは倫理上の問題を呼び起こす。ワクチンパスポート導入を急ぐと逆にワクチンへの信頼度を低下させてしまう恐れがある。急がば回れ。ワクチンの安全性と効果を根気良く説くことがパンデミックを克服する一番の近道になる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経済活動、ほぼ変化なし 雇用減速・物価は緩やかに

ワールド

米移民当局、レビット報道官の親戚女性を拘束 不法滞

ビジネス

米ホワイトハウス近辺で銃撃、州兵2人重体か トラン

ビジネス

NY外為市場=円下落、日銀利上げ観測受けた買い細る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story