コラム

COP26で外交デビューの岸田首相に不名誉な「化石賞」

2021年11月03日(水)09時34分

「パリ協定」の1.5度目標にも触れず

温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」は産業革命前に比べ世界の平均気温上昇を摂氏2度未満、できれば1.5度以内に抑えることを目指している。岸田首相は1.5度目標にも触れなかった。

「1.5度以内に抑制するには先進国は電力部門対策として30 年に石炭火力全廃、35 年に脱炭素化が求められる。水素・アンモニアの発電利用には以下の課題がある」と気候ネットワークの報告書は3つのポイントを挙げている。

・化石燃料から水素・アンモニアを生産する際のCO2排出についてCCUSによる削減が見込まれているが、実用化には課題が多い。

・30年までに水素・アンモニアの2割程度の混焼が可能になった場合でも残りの燃料として石炭やLNG(液化天然ガス)を燃焼することになり、大量のCO2排出が続く。

・水素・アンモニア関連技術やそれと組み合わせるCCUSはコストが極めて高く、再生可能エネルギーのコストが低下する中で価値が低くなっていく。

日本企業は世界から取り残されるのを懸念

国際環境NGO、FoE Japanの高橋英恵さんは「日本の対策の遅さと甘さが露呈した。岸田首相は水素やアンモニアを解決策の一つとして掲げたが、現在流通している水素・アンモニアはほとんど化石燃料から作られており、輸入に頼らざるを得ない」と指摘する。

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COP26の会場前で岸田首相の演説に抗議する環境団体のメンバー(筆者撮影)

「日本に必要なのは石炭火力発電所を延命することではなく、30年までに段階的に廃止する計画だ。アジアの国々においても必要なのは既存の火力発電の低炭素化ではなく、持続可能な再生可能エネルギー中心の社会に移行するための支援だ」

日本は太陽光や風力など再生可能エネルギーの転換で取り残され、東日本大震災の福島原発事故で安価なエネルギーの石炭への依存が強まった。

温暖化対策に積極的に取り組む企業や自治体、NGOなどの情報発信や意見交換を強化するネットワーク「気候変動イニシアティブ」は2018年7月に105団体でスタートしたが、今では企業500社を含む670団体に拡大している。グローバル展開する日本企業は世界から取り残されるのを恐れている。

岸田首相の演説を歓迎するとしたら、絶滅危惧種となった重厚長大産業だけだろう。COP26は時計の針が日本では逆回りしていることを浮き彫りにした。日本が主導するアジアのゼロエミッションが火力発電の低炭素化だとしたら「日本の間違いをアジアにも広げることになる」(気候ネットワークの浅岡代表)。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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