コラム

ブレークスルー感染はこうして防げ 英オックスフォード大学がツール開発

2021年09月21日(火)18時34分
コロナを止めろのサイン

感染予防を訴えるサイン(昨年冬にモスクワで催されたエクストリームスポーツフェスティバルで)Shamil Zhumatov-REUTERS

<ワクチン2回接種で死亡、入院は劇的に減少。ダウン症や腎移植患者などハイリスクグループには優先的に追加治療を>

[ロンドン発]英オックスフォード大学など12組織18人の研究チームが新型コロナウイルスワクチンを接種した690万人以上の大人(うち520万人は2回接種済み)を調べたところ、ダウン症や認知症など慢性疾患を持つ人はワクチン接種後もコロナに感染しやすく、死亡率も高いことが分かった。英医師会雑誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルで発表された。

正確には昨年12月8日から今年6月15日にかけイギリスでワクチン接種を受けた19~100歳の695万2440人(2回接種済みは515万310人)が対象で、死亡は2031例、入院は1929例だった。しかし2回接種から2週間以上後に死亡していたのは81人、入院も71人にとどまり、ワクチン2回接種で死亡、入院は劇的に減ることを改めて裏付けた。

研究チームはこうしたデータをもとに年齢、性別、民族、貧困度、慢性疾患ごとにブレークスルー感染による死亡、入院リスクを算定した。相対的な危険度を示すハザード比で見た死亡率は男性1.89倍、白人を1倍とした場合、インド系1.59倍、パキスタン系2.28倍となり、貧困地域では1.27倍となっていた。高齢になるほど死亡率は上昇していた。

優先的に追加接種や抗体カクテル療法を

ダウン症12.7倍、腎移植8.1倍、鎌状赤血球症7.7倍、ケアホーム入所者4.1倍、化学療法4.3倍、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)・AIDS(後天性免疫不全症候群)3. 3倍、肝硬変3倍、まれな神経系疾患2.6倍、最近、骨髄移植・固形臓器移植を受けた患者2.5倍、認知症、パーキンソン病各2.2倍となった。

このほか慢性腎臓病、血液がん、てんかん、慢性閉塞性肺疾患、冠動脈疾患、脳卒中、心房細動、心不全、血栓塞栓症、末梢血管疾患、2型糖尿病などが1.2倍から2.0倍の範囲でリスクを高めていた。入院のハザード比でもダウン症2.6倍、腎移植12.8倍、ケアホーム入所者1.7倍と同じような増加傾向が見られた。

白人と比較してインド、パキスタン系のリスクが高くなっていたのはコロナ感染に対する感受性の違いというよりも、普段の行動やライフスタイル、世帯規模、職業に関係しているとみられる。これに対してダウン症患者は、感受性の増加と遺伝的素因を反映している可能性があるという。

慢性疾患を抱えるこうしたハイリスクグループはワクチンを2回接種してもブレークスルー感染して入院、死亡する恐れがあるため、優先してワクチンの3回目(ブースター)接種や抗体カクテル療法を行う必要がある。3回目接種の優先順位や投与量、抗体カクテル療法に関する政策立案に役立てることができる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story