コラム

菅首相が「国際公約」にしてしまった東京五輪の現実味 日米首脳会談でも言及

2021年04月17日(土)22時09分

日本のコロナ対策を厳しく批判してきた英キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司・公衆衛生研究所長らは英医学誌BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)に寄稿し、「五輪開催は再考を。ベネフィットとリスクに関する透明性が欠如しており、国際的な大規模イベントはまだ安全ではない」と訴えた。

「世界はまだパンデミックの最中で、変異株は国際的な関心事で世界的にコロナの再流行を引き起こしている。IOCによる五輪参加者へのワクチン接種計画は命を救うのに役立つかもしれないが、ワクチン外交やワクチンナショナリズムを高める恐れがある。アスリート優先は倫理的懸念を引き起こす」

「アジア太平洋の他の国と異なり、日本はまだ感染を封じ込めていない。日本の限られた検査能力とワクチン接種の遅れは政治的リーダーシップの欠如に起因する。医療従事者やハイリスクグループでさえ、五輪前にワクチンを接種してもらえない人がいる」と指摘している。

二階・自民党幹事長も「中止」ほのめかす

自民党の二階俊博幹事長は今月15日、TBSのCS番組の収録で「これ以上とても無理だということだったらこれはもうスパッとやめなきゃいけない。オリンピックでたくさん蔓延(まんえん)させたということになったらなんのためのオリンピックかわからない」と述べた。

渋谷氏らや二階氏の懸念はもっともだ。しかし菅首相の言葉は国際社会では日本と日本国民を代表している。WHOから"中止勧告"でも出ない限り、日本から「止める」とはとても言い出せない。IOCも開催の方針を崩していない。

開催を1年延期した昨年3月に比べると、私たちの手には安全性も有効性も高いワクチンや、30分で結果が分かる迅速検査キットもある。イギリスでは変異株を探知するため、全市民を対象に週2回の迅速検査を呼びかけている。重症患者の死亡を防ぐ治療薬も分かってきた。

死者15万人超と欧州最悪の被害を出したイギリスでは、サッカーのプレミアリーグは観客数を制限、または無観客で試合を開催した。接触制限と検査を徹底すれば感染を制御できることを実証した。1週間で選手や関係者に最大36人の感染者を出したこともあったが、今では1人か2人に減った。

国際水泳連盟はいったん中止の意向を示していた水泳、飛び込みの東京五輪最終予選について来月、東京で実施すると発表した。「中止の意向」は、コロナ対策の3日間検疫や追加費用に不満を抱いていたためと報じられている。プールの水は塩素消毒されており、ほとんどのウイルスは不活化する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story