コラム

「人道大国」がどんどん不機嫌になる理由 北欧スウェーデンでも極右政党が台頭

2018年09月06日(木)13時20分

昨年4月にはストックホルムで過激派組織IS(「イスラム国」)に参加するウズベキスタンの亡命申請者がトラックを暴走させ、5人を殺害、14人を負傷させた。イスラム過激派のテロが多発し、それに呼応するように極右のテロも起きる。もはやスウェーデンは「安全、安心」な国とは言えなくなった。

ネオナチを追放して「毒消し」

20世紀初め、スウェーデンの人口は510 万人で、外国生まれは3万6000 人弱。外国生まれの比率は0.7%に過ぎなかった。

第二次大戦中に他の北欧諸国やバルト三国を逃れた難民が流入し、高度成長期の50~60 年代に北欧諸国からの移民を受け入れた。その後はハンガリー動乱、旧ユーゴスラビア紛争やアフガニスタン・イラン戦争などのたび難民を積極的に受け入れ、「人道大国」と称賛された。

2017年に人口は1012万人まで増えたが、このうち外国生まれは188万人、移民二世は56万人。外国背景を持つ人口割合が24.1%に達している。これに15年の欧州難民危機でなだれ込んだ16万3000人の難民が加わり、スウェーデン社会はパニックにも似た不安にとらわれている。

スウェーデン民主党が結成されたのは1988年。党首はネオナチ活動歴があり、制服を着用した示威的な運動を展開。しかし95年以降、主張をオブラートに包むようになり、2005年、現在のオーケソン党首になってからネオナチ活動歴のあるメンバーを追放して党の「毒消し」に努めた。

10年の総選挙で「責任ある移民政策」「安心できる老後」「犯罪撲滅」の3本柱を掲げ、得票率5.7%で初の国政進出を果たす。14年の総選挙では得票率12.9%で49議席を獲得した。

スウェーデン民主党の論理は移民・難民悪玉論の一点張り。「犯罪が多発するのは移民のせい」「福祉予算が逼迫するのは移民が増えたから」「移民がスウェーデンの伝統と文化を崩壊させる」。スウェーデンの主権を薄める欧州連合(EU)からの離脱を唱えている。

難民危機当時、ドイツや英国と並ぶ難民の3大目的地だったスウェーデンもご多分にもれず、難民認定のふるいを厳しくして却下した申請者を不法移民とみなして強制送還している。極右政党の背後にはそれを支持する有権者がいる。

スウェーデンの人道主義は人の心に広がる不寛容に侵食され、朽ち果ててしまうのだろうか。最終章を書き込むのは人間なのだが、結末はまだ誰にも分からない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story