コラム

防衛費増額と増税...「適切に管理」では済まない、見落とされた問題点とは?

2023年01月11日(水)11時57分
岸田文雄首相

ISSEI KATO–POOL–REUTERS

<防衛費の増額については国民への説明が不十分との批判が起きているが、長期的な財源という点についてもその指摘は当てはまる>

十分な議論がないまま、防衛費の増額が2023年度予算からスタートする。5年間で想定されている防衛費の総額は43兆円となっており、現行からの増額分は17兆円になる。

このうち約11兆円については歳出削減や政府保有資産の売却益、剰余金などで賄うとしており、残りの6兆円については、増税や建設国債の活用が想定されている。唯一の恒久財源ともいえる増税は時期が未定となっているので、事実上、財源の裏付けがないまま見切り発車した格好だ。

一連の問題で注意する必要があるのは、増額に関する議論が5年間に限定されていることである。政府が提示している防衛費とその財源はあくまで5年分であって、その後については明確な方針が示されていない。

政府資産の売却には限度があるし、歳出削減も毎年継続的に実施できるものでもない。財政上、予算を余らせることはできるだけ避けるのが原理原則であり、剰余金は恒久財源にすべきではない。

5年後の27年度予算における防衛費増額分4兆円のうち、増税が想定されているのは1兆円しかなく、6年目以降も同じ規模の防衛費が続くのなら、3兆円の恒久財源を確保する必要に迫られる。

岸田政権としては、当面、増強が必要な防衛力については5年間でめどを付け、6年目以降については状況を見て判断するつもりなのかもしれない。だが、防衛費には他府省の予算にはない特殊性があり、短期間の金額だけで議論するのは危険である。

高額兵器は「ローン払い」

防衛費の中でも戦闘機や戦車など正面装備は特に高額になるため、必要となる装備を一括払いで購入するケースは少ない。

新型の兵器など量産されていない装備の場合、メーカーに対して開発費も含めた代金を支払う必要があり、例えば、10年間で2兆円といった契約が交わされる。この場合、契約がスタートした年度の支払いは2000億円だが、その後も9年間、同額の支払い義務が続く。

国の財政というのは単年度主義(当年度の歳出は当年度の歳入で賄うべきという考え方)が大原則であり、これは財政法でも規定されている。複数年度にわたる歳出は国庫債務負担行為と呼ばれ、財政法上の例外扱いだが、防衛費についてはその構造上、国庫債務負担行為を多用せざるを得ない。

つまり、増額が決まった装備品については、何年の契約で、いつまで歳出が続くのか明確にならなければ、6年目以降の財源について議論できないことになる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウ大統領府長官の辞任、深刻な政治危機を反映=クレム

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ大統領と電話会談 米での会談

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story