コラム

新興国で日本車が売れなくなる? EV技術と中国の支援で、現地「国産車」続々

2022年01月19日(水)17時52分
ベトナム・ビンファースト

ベトナム「ビンファースト」のEV MIKE BLAKEーREUTERS

<東南アジアやアフリカの国々が、これまで先進国の特権だった自動車の製造に乗り出している。愛国心を武器に、新興国市場を「国産車」が席巻するのか>

ソニーが電気自動車(EV)への参入を表明した。EVは部品点数が少なく、高度な生産技術が不要であることから、異業種からの参入増加が予想されていた。既にアップルが自社ブランドEVの開発を進めている現実を考えると、ソニーの参入は特段、驚くべきことではない。

だが、異業種からのEV参入にはもう1つの流れがある。新興国企業が相次いでEV開発に乗り出しており、世界の産業構造を変える可能性が高まっているのだ。

ベトナムの「ビンファースト」は、同国初となるEVの販売を2021年12月にスタートした。エジプトの国営自動車メーカー「ナスル」も、国産EVの開発を進めており、22年には本格的な生産を開始する。ウガンダでは、国営企業の「キイラ」がアフリカでは初となるEVバスの量産を予定している。

新興国は近年、目覚ましい経済成長を実現しており、国民の購買力は急激に高まっている。低価格なEVであればビジネスとして十分に成立する水準になりつつある。

これまでの時代、新興国にとって国産自動車を持つことは見果てぬ夢だった。競争力を持つ自動車産業を育成するためには、高度な資本や技術の蓄積に加え、労働者のスキル向上も必要であり、巨額の先行投資が求められる。自動車を生産するというのは、全てを兼ね備えた先進国の特権だったと言っていいだろう。

愛国的な感情と自動車産業の結びつき

ところが構造が簡単なEVであれば、新興国でも国産自動車を生産できる道筋が見えてくる。しかも新興国は独裁政権であることも多く、こうした国々はしばしばナショナリズムを政治に利用している。

ベトナムのビンファーストが自動車生産に乗り出した17年には、同国のグエン・スアン・フック首相(現国家主席)が「国産車を造るプロジェクトは愛国的で尊敬に値する」と手放しで称賛したほか、軍政が続くエジプトも国産EVの購入を国民に求めていく可能性が高い。日本でも一部の人々が、外国企業の排除や国産優遇を求める主張を行っているが、それは外国でも同じことである。

だが、こうしたナショナリズムは、工業製品の輸出を行う日本のような国にとって大きな逆風となる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.3万件減の22万400

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ビジネス

米11月CPI、前年比2.7%上昇 セールで伸び鈍

ワールド

米、台湾への武器売却を承認 ハイマースなど過去最大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story