コラム

コロナで急増した貯蓄をどう使うか...日本人の使い方は下手すぎる

2021年09月15日(水)20時19分
コロナ貯金(イメージ画像)

BOB_BOSEWELL/ISTOCK

<コロナを機に世界中で過剰貯蓄が増大しているが、日本と欧米ではその使い道と将来的な影響に大きな違いが>

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、全世界的に貯蓄額が増大している。経済活動の停滞によって消費が抑制されたことや、給付金など各種支援が行われたことが原因であり、貯蓄の増加そのものは予想されていた。重要なのは増えた貯蓄をどう活用するかだが、その点において日本には大きな課題がある。

内閣府が取りまとめた「世界経済の潮流」によると、アメリカの超過貯蓄額(2020年第1四半期以降の累積)は2.5兆ドル(約275兆円)、欧州は6800億ユーロ(約89兆円)だった。21年の予想GDPに対する比率はそれぞれ11.0%と5.7%になる。

アメリカ企業は業績が悪化するとすぐに従業員を解雇する傾向が強く、コロナ危機では大量の労働者が仕事を失った。アメリカ政府は企業活動に制限を加えることはせず、個人に対して手厚い給付金や失業手当を支払うという直接的支援を行ったことにより、アメリカの貯蓄は大幅に増えた。

一方、欧州は従業員の解雇を防ぐための制度が手厚く、個人ではなく企業に給付された支援金も多い。結果として雇用は大きく動かず、貯蓄額の増加は外出自粛などによる消費減少分にとどまった。

日本も同一基準ではないが、GDP統計を見る限りでは19年との比較で貯蓄額が36兆円ほど増えたことが分かる。21年の予想GDPに対する比率としては6.4%である。日本では給付金と企業支援の両方が実施されたが、欧米と比較すると規模が小さく、家計は完全に守りに入っている。日本の貯蓄増加の多くは、やはり消費の減少分と考えてよいだろう。

問題は貯蓄を成長に生かせるかどうか

経路に違いはあるものの各国とも貯蓄が増えているという話だが、問題は過剰貯蓄を次の成長にどう生かすのかである。米バイデン政権はコロナ対策と次世代技術への先行投資を兼ねて、総額で約450兆円もの財政支出を計画している。

欧州もアメリカほどではないが、100兆円規模の次世代投資基金を設定した。欧米各国の場合には、過剰貯蓄はこうした次世代投資が吸収する形で市場に還元される可能性が高い。

投資として支出された資金は、その年におけるGDPへの貢献としては金額分だけだが、次世代の成長を生み出す原資であり、長期にわたって効果を発揮する。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア、売上高見通しが予想上回る 株価2%高

ビジネス

FRB、明確な反対意見ある中で利下げ決定=10月F

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコの和平仲介に期待 エルドアン

ワールド

EXCLUSIVE-米、ウクライナに領土割譲含む紛
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story