コラム

年金の基礎知識と、受給額が激減するシビアな未来を生き抜くヒント

2019年10月29日(火)12時39分

先ほど、40年間の平均月収が44万円(年収が530万円)だった人は、毎月15万5000円の年金がもらえると説明したが、政府は手取り月収である約36万円を収入と見なしている。36万円に対して15万5000円の年金が支払われるので所得代替率は43%になるが、額面ベースで所得代替率を計算すると35%にしかならない。

さらに言うと、政府は「所得代替率50%を維持する」と説明しているが、これは専業主婦世帯を基準にしたものなので、単身世帯の場合には当てはまらない。「給料の50%が給付される」という先入観で年金額を判断しないよう注意してほしい。

では今、大問題となっている年金の減額についてはどう考えればよいのだろうか。

日本の年金制度は賦課方式といって、現役世代から徴収した保険料で高齢者の年金を賄う仕組みなので、現役世代の人口が減ると制度の維持が難しくなる。政府は、現役世代の人口減少に合わせて高齢者への給付を減らす「マクロ経済スライド」を導入している(物価に応じて年金額を増やす「物価スライド」とは別なので注意が必要)。この制度は既に2度発動されており、2019年の年金は本来もらえるはずだった金額よりも大幅に減額された。

今後もマクロ経済スライドが発動される可能性が高く、段階的に年金は削減されると思ってよい。

問題は同世代間での格差

政府は19年8月に最新の年金財政検証を公表しており、厳しめの経済見通しでもモデル世帯における所得代替率は50%を維持するとしている(現在の所得代替率は61.7%)。しかし、この財政検証は前提条件を極めて甘くしたものであり、現実的な数字とは言えない。全てを現実的な数字に置き換えた場合、経済が比較的良好に推移しても2割から3割の減額となるのはほぼ確実だ。

ストレートに言ってしまうと、相応の資産を持ち、利子や配当、家賃収入がある人や、高額の貯蓄を持つ人以外は、定年後も何らかの形で所得を得ない限り、それなりの暮らしを維持することはできない。

若い人は世代間格差を気にしているかもしれないが、日本の年金制度はそもそも老後の生活を完全にカバーできるものではなく、今の高齢者は相対的に若年層よりも有利というレベルにすぎない。実際、所得代替率が60%を超えていても、現時点における年金生活者のうち、年間100万円以下しか年金をもらっていない人は全体の4割、150万円以下まで条件を拡大すると何と全体の6割が該当する。問題の本質は世代間格差ではなく、同世代の中での年金格差だと考えるべきだ。

年金減額という厳しい時代を生き抜くためには、可能な限り長く就労することが最も重要な対応策となる。できるだけ早い段階から、後半戦のキャリアを強く意識して仕事をする必要があるだろう。

職業人としての人生には、前半と後半があると割り切り、前半戦は、後半戦において有利な仕事に就くための、長い就職活動期間と捉えたほうがよい。

営業成績など単純な成果を追うよりも、後半戦でのキャリアにつながるのか、という観点で仕事に取り組んだほうが自分のためになるだろう。当然のことだが、所得の一定割合を長期的な資産運用に充てるという取り組みも同時並行で進めていく必要がある。

<本誌2019年10月8日号「経済超入門」特集より>

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story