コラム

安倍首相「マクロ経済スライド」連呼で墓穴? 年金を減らす仕組みの実情

2019年07月02日(火)14時05分

マクロ経済スライド制度が年金減額のために作られたことを知らなかった人も多かった Francois Lenoir-REUTERS

<このネーミングに問題の本質を見えにくくする効果があったのは間違いない。マクロ経済スライドと聞くと、景気の動向に合せて年金の額を調整するようなイメージだが、「マクロ経済スライド」とは、将来の年金を減額するための仕組みである>

年金2000万円問題をめぐり、安倍首相が「マクロ経済スライド」という言葉を連呼したことが話題となっている。蓮舫議員の執拗な追求に、年金制度に問題はないという文脈で用いたキーワードだが、これにはどういう意味があるのだろうか。

ズバリ、年金を減らすための仕組み

老後に2000万円が必要と記述した金融庁の報告書が大問題となったことを受け、立憲民主党の蓮舫議員が、参議院決算委員会において30分にわたって安倍氏らに質問を行った。いつものことではあるが、蓮舫氏のあまりのしつこさに、安倍氏は10回近くも「マクロ経済スライド」というキーワードを連呼して、年金制度の確実性について力説した。

国会での論戦のあり方には様々な意見が出ているが、ここではその話題には触れない。ただ、安倍氏が何度も口にした「マクロ経済スライド」という制度は、公的年金の維持に極めて重要な役割を果たすものであり、その内容については、よく理解しておいた方がよいだろう。

「マクロ経済スライド」というのは、ストレートに言ってしまうと、将来の年金を減額するための仕組みである。

日本の公的年金は賦課方式と呼ばれており、自身が積み立てた保険料を将来受け取るものではない。現役世代から徴収した保険料を高齢者に配分する仕組みなので、高齢化が進むと制度の維持が難しくなる。このままでは公的年金を維持できなくなるので、現役世代の減少に合わせて、年金の額を減らすために作られたのがマクロ経済スライドである。

マクロ経済スライドと聞くと、景気の動向に合せて年金の額を調整するようなイメージを持つ人が多いと思うが、実態は異なる。制度の導入が議論された際、名称が誤解を生む可能性があり、不適切だという批判の声が一部から出ていたものの、結局は、この名前が採用された。

厚労省側に姑息な意図があったのかは何とも言えないが、このネーミングに問題の本質を見えにくくする効果があったのは間違いないだろう。同制度は2004年に導入され、すでに年金減額もこっそり実施されているが、この制度が年金減額のために作られたことを知らなかった人も多かったはずだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

比大統領「犯罪計画見過ごせず」、当局が脅迫で副大統

ビジネス

トランプ氏、ガス輸出・石油掘削促進 就任直後に発表

ビジネス

トタルエナジーズがアダニとの事業停止、「米捜査知ら

ワールド

ロシア、ウクライナ停戦で次期米政権に期待か ウォル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 3
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 4
    テイラー・スウィフトの脚は、なぜあんなに光ってい…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 7
    日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心...エヌビ…
  • 8
    またトランプへの過小評価...アメリカ世論調査の解け…
  • 9
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story