コラム

外国人にオープンな社会ほど、単純労働者の受け入れは必要ないという皮肉

2018年12月26日(水)13時50分

つまりオーストラリアは、知的能力や体力があり、しかも単純労働に従事する意欲のある若者が、期間限定で常に20万~30万人存在することになる。彼等はあくまで国際交流のために訪問しているので、1年(もしくは2年)経過すれば、ほぼ100%母国に帰ることになる。

日本の人口にあてはめれば、100万~150万人規模の労働力ということになるが、この数字は、現在の日本における外国人労働者数(100万人)に、今後、法改正によってあらたに受け入れる外国人労働者数(50万人)を加えた数字とほぼ一致する。日本でもオーストラリア並みのワーホリ入国者がいれば、数字上は、外国人労働者に頼る必要はまったくないという計算になる。 

外国人に非寛容な社会ほど、外国人の問題に直面する皮肉

だが日本にワーホリ目的で入国する若者は1万人程度しかなく、単純労働の担い手としては期待できない。オーストラリアにこれだけワーホリ目的の入国が多いのは、豪州が外国人に対して寛容で、多様な価値観を認める社会であることが大きい。

同国は、単純労働の移民を大量に受け入れたとしても何とかやっていくだけの懐の深さがあるが、皮肉なことに、そうした寛容な社会であるが故に、単純労働者の移民を受け入れる必要がない。

このような話を書くと、日本とオーストラリアは違うという意見が必ず出てくるのだが、決してそうではない。80年から90年代の前半までは、多くのアジアの若者が日本への留学や渡航を夢見ていた。だが実際に日本に滞在すると、あまりよい印象を持たずに帰国するケースが多く、日本の大学も留学生を戦略的に受け入れるという発想を持てなかった。

もし日本社会がもっと留学生を暖かく迎えていれば、豪州と同規模のワーホリ入国者を集めることなど、それほど難しいことではなかったはずである。

今でこそ年間3000万人の外国人観光客が日本を訪れるようになったが、歴史と文化を持つ豊かな先進国としては、観光客の数はこれでも異様に少ないというのが現実である。多様な価値観を認めず、外部に対して閉鎖的になればなるほど、外国人や移民の問題がやっかいになるという状況についてもっと理解した方がよいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story