コラム

カールに続いてチョコフレークも...お菓子の定番商品が売れなくなっているのはナゼ?

2018年11月13日(火)14時30分

家計の菓子の消費は減っているのに生産が拡大する不思議

そもそも日本国内における菓子の消費はどのように推移しているのだろうか。菓子類は単価は安いものの、マーケティング的には嗜好品と分類されており、景気が悪くなると消費が伸び悩む傾向がある。

総務省の家計調査によると2017年における菓子類の消費(二人以上の世帯)は年間8万3000円となっている。リーマンショックによる落ち込みからは回復したものの、2016年との比較ではわずかにマイナスとなっている。

つまり家計はあまり積極的には菓子類を購入していない。生活に余裕がなく、コンビニ弁当の価格を徹底的に吟味する人にとっては、菓子類はコスト・パフォーマンスが悪い。若年層を中心に実質賃金の低下が続いている現状を考えると菓子類の消費が伸びないのは当然の結果といってよいだろう。

ところが日本国内における菓子全体の生産は比較的、堅調に推移している。

全国菓子協会の調査によると、2017年における菓子類の販売金額(生菓子など含む)は3兆3898億円となっており、2015年との比較では約600億円ほど拡大した。明治、森永、江崎グリコなど主要菓子メーカーの業績も増収増益基調を保っており、市場環境が著しく悪化しているわけではない。

家計が菓子類への消費を控えているのに、国内の生産や販売が増加するという奇妙な状況となっているが、この謎を解く鍵はインバウンド需要にありそうだ。

安倍政権は外国人観光客によるインバウンド需要を成長戦略の中核の一つに据えている。2017年は約3000万人が来日したが、そのほとんどは中国人と韓国人である。中国人や韓国人の間では、日本の菓子類の人気が高く、お土産に買って帰るケースが多いという。

スナック菓子類はあまりお土産にはならないかもしれないが、滞在中の消費も、3000万人規模ということになるとバカにできない数字だろう。

今、売れている商品に注力するのは自然なことだが...

一連の状況を総合的に考えると、定番商品の生産終了は複合的な要因で発生していると考えられる。昭和の時代と比較すると、若年層の味覚は変わっており、必ずしもかつての定番商品が売れ続けるとは限らなくなった。

これに加えて、実質賃金の低下によって、菓子類への消費意欲は高まっていない。以前のように「つい習慣で」という理由で定番商品を買う消費者が減ったのは間違いないだろう。

一方、菓子類への消費が減少しているといっても、チョコレート類の販売は比較的堅調に推移している。チョコフレークのケースが代表的だが、現時点である程度の利益が出ていても、生産設備の本格的な入れ換えを行うには不十分と判断されれば、メーカーは生産中止を決断する。ひとたび設備を更新すれば、今後、長期にわたって売れ続けなければ元が取れないからである。

国内市場は今後、人口減少で縮小する可能性が高いが、不確定要素が多いインバウンド需要に頼るわけにもいかない。メーカーとしては無理をせず、今、売れている商品に注力した方がよいとの判断に至るのはごく自然なことだろう。

しかしながら上場企業の場合、縮小市場に合わせて業績も低下させていくというやり方は基本的に許容されない。海外戦略も含めて、今後の成長シナリオをどう描いていくのか、経営陣の力量が問われている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story