コラム

第一交通が相次いで配車アプリと提携 背後で糸を引くのはソフトバンク 

2018年03月06日(火)11時20分

ソフトバンクは配車アプリの総取りを狙っている

日本ではあまり知られていないが、実はソフトバンクは世界における配車アプリ事業の中核に位置している。 

ソフトバンクを中心とした投資家連合は今年1月、ウーバーに対する約1兆円の出資を実施しており、ソフトバンクはウーバーの筆頭株主となった。だがソフトバンクによる配車アプリへの出資はこれだけではない。 

第一交通と提携した滴滴には累計で1兆円程度の出資を行っており、ソフトバンクは滴滴の経営にも影響力を行使できる立場にある。またインドの配車アプリであるOLA、東南アジア地域を中心に展開するグラブ、ブラジルで事業を行う99など、配車アプリ企業を次々に傘下に収めているのだ。  

ウーバーは北米や欧州で圧倒的なポジションとなっており、滴滴は中国最大の配車アプリである。さらにインド、東南アジア、ブラジルと、人口密集地帯の配車アプリはすべてソフトバンクの影響下にある。つまり同社はグローバル戦略の一環として、各地域におけるメジャーな配車アプリに出資していることが分かる。  

ちなみにブラジルの99は今年1月、滴的によって10億ドル(約1100億円)で買収されており、同社の傘下に入っている。滴滴はこの買収によって全世界の人口の60%以上をカバーしたという。 

ソフトバンクの孫正義社長は、時折、自らの経営戦略について囲碁に例えることがあるが、一連の配車アプリへの出資はまさに陣地を総取りする戦略といってよいだろう。こうした背景を考えると、ウーバーと滴滴がほぼ同じタイミングで第一交通との提携を模索しているのは、不思議なことではない。

競争環境が促進されるという効果も

日本ではタクシーに対する規制が強く、ライドシェアがほとんど進んでいないことは先にも述べた。この規制が緩和される可能性は低く、日本における配車アプリはタクシー主導という形にならざるを得ないだろう。 

だが、これまでタクシー会社が独自に提供していた配車アプリの世界に、ウーバーや滴滴という、中立的な立場の企業が参入してきた意味は大きい。  

これまでの配車アプリは、タクシー会社主導だったので、タクシーの選別という概念はなく、単なる顧客の囲い込みにすぎなかった。だが独立した配車アプリのサービスが普及し、これに多くのタクシー会社が相乗りするような状況となれば、話は変わってくる。 

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米相互関税は世界に悪影響、交渉で一部解決も=ECB

ワールド

ミャンマー地震、死者2886人 内戦が救助の妨げに

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、1人死亡 エネ施設

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story