コラム

分かっているようで分かっていない 企業の内部留保問題を整理する

2017年11月21日(火)13時00分

写真はイメージです。 baona-iStock.

<問題は日本企業が多額の現金を保有したままの状態にしていることであり、結局のところ解決策はコーポレートガバナンスの強化だ>

先の総選挙において、希望の党が内部留保に対する課税策を打ち出したことから、再び企業の内部留保に注目が集まっている。希望の党は政治的なミスで失速してしまったが、日本企業が抱える巨額の内部留保に対する批判は以前から存在しており、財源あるいは経済政策への活用について模索されてきた。一方、内部留保については様々な誤解もあり、議論は定まっていない。

疑問その1 内部留保って現金なの?

そもそも企業の内部留保とはどのような存在なのだろうか。語感から、企業が溜め込んだ利益とイメージされることが多いが、その解釈で大きくは間違っていない。だが「内部留保」イコール「溜め込んだ現金」と考えてしまうと、様々な誤解が生じることになる。

内部留保の厳密な定義は存在しないが、一般的には企業の貸借対照表(バランスシート)における利益剰余金を指していることが多い。重要なのは、これは会計上の概念であって、その金額の現金が存在しているわけではないという点である。

企業が各年度に上げた利益は、バランスシート上では利益剰余金という形でその額が累積されてくる。企業の財務分析を行う際には、この部分を見ることで、その企業が過去にどれだけの利益を上げてきたのかが分かる。だが企業は利益として計上した金額を現金のまま保有しておくわけではない。

製造業であれば生産ラインを建設したり、小売店であれば店舗の設備を更新するなど、企業は何らかの投資を行って事業を継続することになる。現金の多くは資産に変わっているので、現金と内部留保の額は一致しない。

では実際に数字を見てみよう。2016年3月末におけるトヨタ自動車の利益剰余金は約16兆7500億円だった。だがトヨタが保有している現預金(有価証券含む)は約5兆5000億円と内部留保の3分の1程度である。では、日本全体ではどうなっているだろうか。同じく2016年3月末時点におけるすべての日本企業(金融保険業を除く)の内部留保は約406兆円である。しかし現預金は約半分の211兆円しかなく、残りは設備投資などの資産に代わっている(トヨタはあまり現金を余らせていないので、資金を有効活用できている)。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、北朝鮮の金総書記に新年のメッセージ

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story