コラム

プーチンはソ連再興の野望に邁進している、のか

2022年01月22日(土)13時02分

カザフスタンの暴動鎮圧に派遣されたロシア軍兵士 PAVEL MIKHEYEVーREUTERS

<ウクライナ情勢をめぐる欧米とロシアによる「往復ビンタ」の応酬が意味するもの>

新年早々から、ウクライナをめぐるロシア軍とアメリカ・NATOのにらみ合い、国内ガバナンスを失ったカザフスタンへの軍派遣など、プーチン大統領はエンジン全開だ。

それにロシア軍はいつの間にか、東はキルギス、タジキスタン、西はモルドバの沿ドニエストル、中央はジョージアの一部、アルメニアとアゼルバイジャンのカラバフ地方と、ほぼ満遍なく入り込んでいる。

プーチンは、エリツィン元大統領が壊したソ連を再興して、2024年の大統領選挙で大見えを切ろうとしているのだろうか?

古今東西、帝国が崩壊すると周縁部は長期にわたる不安定の弧となりやすい。近い例では第1次大戦後のオーストリア・ハンガリー帝国とオスマン・トルコ帝国の崩壊で、双方の周縁部だったバルカン地域は今でも不安定だ。

1991年のソ連崩壊でも、周縁部の多くの国はガバナンスや経済力に欠け、独立後30年たっても不安定であり続けている。

旧東欧諸国の一部はソ連の復活を恐れて、米軍やNATO諸国に軍事的関与の強化を求め、ポーランド、ルーマニアはアメリカのミサイル防衛システム(といっても、中距離ミサイルを転用したものだが)を配備した。

これに脅威を感じたロシアは近年、欧州内の飛び地カリーニングラードに短距離弾道ミサイルを配備、対NATO正面の陸海軍も増強した。するとアメリカ・NATOはこれに対応するためにロシア至近の海域での演習を繰り返し、クリミアの至近距離まで爆撃機を飛ばしてミサイルを発射する演習を展開する。

この一連のエスカレーションの頂点として、今回のウクライナをめぐる米ロのやりとりがあるのだ。

だが、この「ビンタの応酬」は、プーチンがソ連の復活を狙って仕組んだものではない。彼は基本的には現状維持を狙う。ただ追い詰められ、かつ西側に隙があればクリミア併合のような挙に出る。

ソ連邦は1917年にロシア帝国が崩壊した後、赤軍が武力で全国、そして周縁部を制圧して成立したものだ。一度分裂すれば再統合するにはよほどの経済的魅力か武力が必要となる。ロシアに経済的魅力はなく、武力を使えば国際社会で孤立するだろう。

1月10日からは、米ロ間と、NATO・ロシア間で話し合いが始まった。米ロ痛み分けの形で周縁部の緊張緩和が図られるだろう。

冷戦時代には中部欧州相互均衡兵力削減交渉(MBFR)で、周縁部の相互の兵力には上限が課せられ、互いの動きを通報し合うシステムが機能していた。これで不要のエスカレーションを防いだのだ。これに似た取り決めをつくればいい。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は予想下回る3900億元

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小

ビジネス

ECB、大手110行に地政学リスクの検証要請へ

ワールド

香港の高層住宅火災、9カ月以内に独立調査終了=行政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story