コラム

「親米か反米か」をめぐるイデオロギー対立は終焉を迎えた

2021年11月17日(水)14時08分

自民党内部では既に新たな「対立軸」が生まれ始めているが HANNAH MCKAYーPOOLーREUTERS (KISHIDA), FRANCK ROBICHONーPOOLーREUTERS (ABE)

<日本で戦後70年続いた保革対立に代わる、新たな対立基軸を構築せよ>

10月末の総選挙について、このコラムで自民党が勝つだろうと書いたものの、実は内心ヒヤヒヤだった。地元の駅前で共産党候補の演説を聞く人たち(多くが高齢者)の表情に、真剣、切実なものを感じたからだ。結果は与党連立の勝利に終わったが、アメリカやロシアであれば敗者が「開票に不正あり!」と叫び大騒ぎになっただろう。

政治、そして政党は世につれ、時につれ変わっていく。先進国では工業の空洞化が進んだことで労使間のイデオロギー的対立が薄れ、代わって格差や人種、移民などの問題で不満を抱える者たちを大げさな言葉であおって票を稼ぐポピュリズムが幅を利かせている。

日本でも、1990年代のバブル崩壊前後に本格化した製造業の海外流出で社会が大きく変化した。その中で、戦後70年も続いてきた「保守と革新」が、与野党の対立の軸として機能しなくなっている。北朝鮮などからの脅威がリアルになるにつれて、空母や中距離ミサイルなど、自衛隊の兵装強化に野党は寛容になっている。「親米か反米か」で対立するのは、現実に見合わないものになってきたのだ。

現在、国民の関心は経済、そして暮らしぶりに絞られている。だから与野党は選挙を前に大盤振る舞いの規模を競うことで他党との違いを見せようとした。

こういうさまなら、いくつもの政党が選挙でしのぎを削るのはもう意味がないのでは? やはり中国五千年の知恵に倣って選挙など......。いや、早まるまい。選挙で対抗馬が出ることで落選の憂き目を見るかもしれないという危機感がなければ、政治は弛緩し腐敗する。

ところで今回の選挙を受けて面白いことが起きている。自民党内部、そして連立両党の間に「対立軸」が生まれつつあるのだ。まず、安倍晋三元首相が今回の政府・党人事に不満を持っているようだ。

そして、彼の地元の山口県でひそかに影響力を争ってきた林芳正議員が衆議院にくら替えして次の自民党総裁選を狙える位置に就いた。しかも外相に抜擢されたことは、岸田文雄首相と安倍氏の隙間をさらに広げることだろう。

安倍氏は、中国に穏健な姿勢を見せる岸田政権を挑発するかのように、台湾訪問の構えを見せている。彼は今後、財政や安保政策などで菅義偉前首相や二階俊博元幹事長の一派とも提携し、彼に私淑する高市早苗政調会長も利用して政権をタカ派の方向へ誘導し、その路線に合わない公明党に代えて維新を連立に引き込むことも考え得る。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

みずほ銀、長プラを年3.00%に引き上げ 97年5

ビジネス

世界のIPO、3月は前年比8%増の99億ドル アジ

ビジネス

セブン&アイ、米国コンビニ子会社の上場延期 業績低

ビジネス

午後3時のドルは158円後半へ小幅高、米イラン直接
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 3
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 6
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story