コラム

秩序なき世界で日本の新首相が示すべき旗色

2021年09月25日(土)15時38分

誰が新総裁になっても意識改革が求められている AFLO

<パックス・アメリカーナが崩れた世界で日本人がどうやって品位と高い生活水準を維持していくかが問われている>

自民党総裁選が大詰めを迎えている。日本経済新聞社の世論調査を見ると、菅義偉首相はその業績を過半数が評価しているのに、総裁選不出馬もまた支持されているというねじれがある。要するに何となく合わない、ということなのだ。

今はアメリカもヨーロッパも、首脳候補は党内の力学よりも世論の受けで決まる。だから日本でも今回、河野太郎行政改革担当相が優勢かと思っていたら、石破茂元幹事長が河野支持を明らかにしたことで流れはがらりと変わった。

もともと、いくつかの派閥の領袖は河野氏の台頭に世代交代のにおいを覚え身構えていたところに、安倍前首相などにとっては天敵であるところの石破氏が河野氏についたから、河野つぶしが表面化した。

9月16日に「小石河連合」が「総裁選必勝を期す会」を開いたところ、肝心の河野氏が、麻生派が同時刻に開いた緊急会合で足止めを食らい、そのことが露骨に表れた。派閥の締め付けが強くなれば、一匹狼が集まっただけの「小石河連合」は飢え死にしてしまいかねない。

この際この連合は、党改革や地方の活性化でも旗印に据えて、1回目の投票で過半数獲得を狙うしかないだろう。負けても脱党して新党をつくれば、総選挙でかなりの勢力となる可能性がある。

一方、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行のいずれが総裁・首相になっても、菅氏と同じ派閥政治、守旧派の産物に見え、総選挙では逆風にさらされる。多くの識者が指摘するように、野党躍進の可能性も含めて、日本では短期政権が相次ぐことになるだろう。

折しも世界は、そんな日本を脇に置いて、どんどん変わる。米中新冷戦で、日本は政治・経済の両面でもっと期待されるだろう。習近平国家主席の「新文化大革命」路線で中国経済が大崩れすれば、それはまた日本の地位を相対的に上昇させる。

その一方で、アメリカが内向きになっていることで日本が自前でやらねばならないことは増える。パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)が崩れた世界では、国内の権力は力による弾圧で堅持し、国外では子供っぽい力比べと陣取り合戦に明け暮れる国々が幅を利かす。そこにルールはない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレ基調指標、10月の刈り込み平均値は前年比2

ワールド

米民主党上院議員、核実験を再開しないようトランプ氏

ビジネス

ノボノルディスクの次世代肥満症薬、中間試験で良好な

ワールド

トランプ氏、オバマケア補助金延長に反対も「何らかの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story