コラム

日本のお粗末なコロナ対策の犯人は誰なのか

2021年08月28日(土)13時26分

財務省も悪気があって支出を渋っているのではないが YURIKO NAKAOーREUTERS

<政府が悪いと言いたくなるがそれは思考停止。どこがどう悪いのかを知り改善できることを検討せよ>

新型コロナ禍での東京パラリンピックが始まった。外国の選手や役員に感染が続発したら病床を確保できるのか? その時の通訳はどうする? ボランティアに生命の危険を冒させるのか──。

思考が麻痺、あるいはIPC(国際パラリンピック委員会)にろくにものを言えないから、危ないと分かっていてもそのまま突っ込む神風パラリンピック。「政府が悪い」と言いたくなるのだが、それもまた別の形の思考麻痺だ。

民主主義の歴史が浅い日本では政府と言えば「お上」か「敵」かの両極端で、自分たちがつくったもの・使うものという意識が足りない。コロナ対策についても、政府のどこがどう悪いのかを調べないと問題の解決にはつながらない。

まず、政府のやることはどうしてこんなにのろく、生ぬるいのか。政府、つまり各省庁の手は、大きく言って法律と予算に縛られている。戦前の専制政治を繰り返さないため、戦後の政府はその力を大きく制約されている。

感染症でロックダウン(都市封鎖)でもしようものなら、それを正当化する憲法・法律の条項がないために、政府は補償要求の訴訟で負け続けるだろう。

そして現在の法律の限られた範囲で緊急事態を宣言しても、それは飲食店への休業補償金支給などを意味するから、中央と地方の財政をつかさどる財務省と総務省の了承を得なければならない。

だが国の予算は使途がきっちり決まっているので年度の途中には出しようもなく、特別立法で補正予算でも取っておかないと迅速・柔軟な対応はできない。仮に予算が確保されても実際に支出するにはゴマンという資料を作って財務省を説得しなければならない。緊急事態も首相の一存ですぐ宣言、というわけにはいかないのである。

財務省も悪気があって支出を渋っているわけではない。二言目には財政黒字化の必要性を叫ぶ財務省ですら、実際には一般会計の歳出約107兆円の約41%を国債発行で調達しているのが実情だ。

今回のコロナ禍で病床も医師も不足する足りないづくしになったのは、戦後、結核を撲滅したからと言って感染症に対処する体制、つまり隔離病棟や全国の保健所をミニマムにまで縮小してきたためだ。

その犯人は予算を削った財務省と言いたくなるのだが、それもまた財務省には酷な話だと思う。筆者も、膨れ上がる一方の医療費を賄うためには不要な歳出の整理が必要だと思っていたし、それは日本の社会がほぼ一致して認めてきたところだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』など  <筆者の過去記事一覧はこちら

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