コラム

韓国における「公正」とは?...公共放送KBSの受信料騒動が浮き彫りにした、韓国社会の分断

2023年08月07日(月)16時47分

圧力は公共放送の在り方にも及び、政府は閣議で、KBSとEBSの受信料を電気料金と合わせて徴収する現行制度を改める決定を行った。これにより両者は受信料徴収の方法を失い、大きな危機に直面している。

韓国の公共放送は何ゆえにこのような事態に直面したのか。その背景に存在するのは、彼らの公正や公平性に関する考え方である。

 
 
 
 

例えば日本では、放送法が定める「公平」は政治的な中立性と結び付いて考えられている。だから、放送内容について政府が干渉することは、「公平」を大きく損なうと見做される。

しかし韓国では、放送法が定める「公正」や「客観性」は中立性よりも、正しさ、より直截には正義に関わるものと認識されている。すなわち、公共放送は正義に沿った報道を行うべきであり、故に間違った放送方針は撤回されるべきと考えられる。

問題は、保守と進歩の両派に分断された韓国社会では、両者が等しく認める正義が既に存在しないことである。政権交代ごとに、政府が公共放送に干渉し、首脳陣の更迭を行うのも、時の政府の奉じる正義と前政権に任命された首脳陣の正義が異なるからにほかならない。

公共放送は本来、何かしらの公共の利益のために存在するものであり、だからこそ前提には何が公共の利益なのかに対する社会の共通理解が必要である。だからこそ、その共通理解が失われた社会において公共放送は基盤を失うことになる。

韓国の状況を参考に、公共放送とその前提となる公共の利益が何かを考えることは、われわれにとっても意味がありそうだ。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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