コラム

BTSの「活動休止」は韓国若年層の悲鳴

2022年07月06日(水)10時20分

6月にはホワイトハウスにも招かれたBTSだったが…… LEAH MILLISーREUTERS

<SUGAの言葉はグループの苦悩を示すと共に同じ世代に共通する痛みを体現している>

BTSがグループとしての活動を休止──そんなニュースが流れたのは6月14日だった。

5月にはビルボード・ミュージック・アワードの3部門を受賞し、ホワイトハウスも訪問するなど大きな影響力を持つ音楽グループをめぐる情報はたちまち世界中を駆け抜けた。

所属事務所はその後、ニュースはグループの活動休止を意味するものではないとして打ち消しを図ったが、原因をめぐっては韓国芸能界の構造的問題やメンバーの兵役問題など、さまざまな臆測が流れている。

見え隠れするのは、現代の韓国の若年層をめぐる厳しい現実だ。

そもそもBTSをはじめ韓国のポップスターが、日本のアイドルたちと比べてはるかに強い社会的メッセージを有しているのもそのためだ。

格差問題の深刻さが指摘される韓国社会だが、全体状況を示す統計的数値は他国に比べて殊更に悪いわけではない。経済的格差の度合いを示すジニ係数は、2018年現在で韓国が0.345、日本が0.334だから似た水準にある。失業率に至っては22年5月現在で2.8%と、OECD加盟国で3番目に低い水準になっている。

にもかかわらず、この国において格差問題の深刻さが指摘されるのは、そのしわ寄せが若年層に集中しているからだ。

韓国統計庁によれば、20代の失業率は7・3%と全体平均の2倍を大きく上回っている。同じ20代の就業者に占める非正規労働者の割合は37.4%。30 代から50代の平均が22.8%だから、いかに負担が集中しているかが分かる。だからこそ3月の大統領選挙においても、この問題は最大の争点の1つになっていた。

とはいえ、彼らが一致団結してその声を政治へと結び付けているか、といえばそうではない。なぜなら経済的に余裕のない状況は、若年層内部に亀裂をも生んでいるからだ。

昨年6月、野党だった保守政党、「国民の力」(現与党)党首に36歳の若さで選ばれた李俊錫(イ・ジュンソク)が掲げたのは、強力なアンチフェミニズムだった。この主張は経済苦が続くなか、徴兵義務などの追加負担に苦しむ若年男性層に好感され、彼らは保守派陣営に結集した。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ政権による貿易戦争、関係業界の打

ビジネス

中国の銀行が消費者融資金利引き上げ、不良債権増加懸

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、3月速報2.2%に低下 サービ

ビジネス

英製造業PMI、3月は23年10月以来の低水準 新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story