コラム

韓国「変則的な大統領制」の欠陥がもたらす奇妙な選挙制度

2022年03月29日(火)16時00分

尹政権の発足時は大統領府と国会で「ねじれ」が生じるが問題はそれだけではない(写真は韓国国会) Jeon Heon-Kyun/Pool via REUTERS

<大統領と国会議員、そして大法院判事の任期が1年ずつずれる制度が引き起こす問題とは>

大統領制と議院内閣制はどう違うか。そう問われた時、皆さんはどう答えるだろうか。

大統領は国民から直接選ばれるけど、議院内閣制の首相は議会で選ばれる、そこが違う。そう答える人が多いだろう。もちろん、それは我々が中学から大学まで、繰り返し学んできた事であり、間違いではない。

しかし、本当に重要なのは、ここからだ。単に制度の違いを知っていても、その働きがどうかわからなければ、その知識はあまり役に立たない。問題は、制度の違いが結果として各国の政治にどの様な違いをもたらすか、である。

さて、今回の韓国大統領選挙後の韓国の状況は、「大統領制とは何か」「我々が慣れ親しむ議院内閣制とどう違うか」にはじまる、制度の違いが持つ重要性を垣間見せてくれる教科書的な事例となっている。

周知の様に議院内閣制では首相を選ぶのは議会だから、多くの場合、首相の所属党派、つまり与党は自然と議会の多数派になる。だからこそ首相は自信をもって自らの望む法案や予算案を議会に提出し、リーダーシップを発揮することができる。

だが、大統領選挙と議会選挙が別個に行われる大統領制の下ではこの原理は働かず、時に「分断政府」と呼ばれる大統領の所属党派と議会の多数派が異なる状況が生まれることになる。

重要なのは、大統領制の下では通常、大統領は議会を解散する権限を持たないので、この状況が次の選挙までそのまま持ち越されることである。アメリカの例で言えば、有名なのはクリントン政権の事例であり、実に1995年から2001年までの6年間、民主党から選ばれた大統領と上下院の双方にて多数を占める共和党が激しく対立することとなっている。

当然の事ながらこの様な状況は大統領のリーダーシップを大きく阻害し、国政を大きく停滞させる。とはいえ、この問題がそれほど深刻にならないのは、多くの国の大統領制においては、大統領選挙と議会選挙、または大統領選挙と議会選挙の一部が、同じタイミングで行われるからである。この場合、大統領選挙における候補者の人気が、その候補者を擁立する党派の支持率を向上させる相乗効果を持つ事になる。

しかし、韓国の場合はそうではない。何故ならこの国が有する大統領制は、その様な本来の形から更に変更を加えられたものになっているからだ。

重要なのは、この国では大統領選挙の日程が国会議員選挙のそれとは全く別個に設定されている事である。背景にはこの国の民主化の歴史がある。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米司法省、FRBに財務状況の明確化要請 CFPB資

ワールド

メキシコ・ブラジル首脳が自制と対話呼びかけ、ベネズ

ワールド

原油先物1%超上昇、米のベネズエラ制裁対象タンカー

ワールド

欧州議会、ロシア産ガス輸入停止計画を承認 2027
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story