米韓首脳会談で文在寅は弱腰批判を免れたが、バイデン外交の2つの基本「中国の体制批判」と「北朝鮮の非核化」は変わらない
それではこの一見して矛盾した二つの首脳会談の背景にあるのは何か。それは突き詰めれば、米国のバイデン新政権の外交政策が依然としてその形成途上にある事に他ならない。例えば、「体制の違い」を基軸とするバイデン政権の対中強硬姿勢は明確であり、そのメッセージは繰り返し発せられている。しかし、同政権がその為に具体的な施策を取るのか、そして同盟国に何を求めていくのかは、今の段階では全く明確ではない。
北朝鮮を巡る状況も同じである。北朝鮮が有する核兵器や弾道ミサイル等の大量破壊兵器を廃棄させる事が、米国の対北朝鮮政策の基本方針なのは間違いない。しかしその為に一体米国に何ができ、何をやるのか。そしてその為に自らの同盟国である日韓両国にどの様な役割を求めるのかは、実は未だ何も決まっていない。
そしてこれは実は必ずしもそれほど異常な事態ではない。何故なら、米国の歴代政権はいずれも自らの外交的基本方針を定め、日本や韓国といった同盟国への具体的な要求にまで落とし込んでいくまでに、通常、6か月以上、長い時には一年を超える期間を要しているからである。
にも拘わらず、この様な早期に首脳会談を行う事の意味は何か。それは米国からすればまず自らの定めた大枠としての外交政策の基本方針への賛同を確認することであり、また、同盟国の側とすれば自らの要望を早期に伝え、これを来るべき米国の具体的な政策へと反映させる事である。
例えば、文在寅は2017年6月、最初のトランプとの首脳会談において、朝鮮半島の平和統一を巡る問題において「韓国が主導的な役割を果たす」という一文を共同声明に盛り込ませる事に成功している。言うまでもなく、この最初の首脳会談での一手こそが、その後、シンガポールにおける米朝首脳会談実現までのプロセスにおいて、文在寅が大きな役割を果たす事を可能とさせたのである。
具体的行動を求められるのはこれから
こうして考えればこの時期の一連の首脳会談が、外交政策の形成過程としての、ワシントンにおける政策決定過程の一部をなしている事がわかる。言い換えるなら、日本政府と韓国政府は、ワシントンにおける政策決定に影響を与えるアクターの一つであり、だからこそ両者の競争は、ワシントン内外の様々なアクターを巻き込んで展開される。そしてこの競争を有利に進める為、菅と文在寅は、バイデンとのできるだけ早期の首脳会談を求め、この政権の外交政策に自らが米国に期待する内容を共同声明等の形で「盛り込む」事を目指した。そして現在のところまで、両者はそれにある程度成功した、という事ができる。
しかしながら、二つの首脳会談に示された内容に違いがある事は明らかであり、だからこそその違いが永遠に放置される事はない。言うなれば、今回の二つの首脳会談の「矛盾した二つの成功」は、飽くまで、バイデン政権が具体的な政策を持たない間の、一時的なものにしか過ぎないのである。中国との「体制の違い」に機軸を置いた対立と、北朝鮮の「完全な非核化」。日韓両国政府のワシントンにおける外交的力が真に問われるのは、バイデン政権がその抽象的な目標を、政策として如何に具体化するか、そして何よりもその具体化の過程に、如何に関与できるかにかかる事になりそうだ。
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