コラム

米韓首脳会談で文在寅は弱腰批判を免れたが、バイデン外交の2つの基本「中国の体制批判」と「北朝鮮の非核化」は変わらない

2021年05月23日(日)20時12分

対中批判を求められず、文大統領は思わず「幸い」だったと安堵したが(5月21日、ホワイトハウスでの共同会見)  Jonathan Ernst-REUTERS

<米韓首脳会談では、バイデン政権は対中・対朝強硬姿勢への同調を求めなかったが、それはまだ具体的アクションが固まっていないからに過ぎない。韓国も日本も、厳しくなるのはこれからだ>


「菅総理とバイデン大統領は、インド太平洋地域及び世界の平和と繁栄に対する中国の行動の影響について意見交換するとともに、経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した」

2021年4月。米国のバイデン新大統領が初めての首脳会談の相手として選んだのは、日本の菅首相であった。もっとも、オバマ政権においても、またトランプ政権においても、米国の大統領は就任後、或いは当選後の最初の会談相手として当時の日本の首相を選んでいるから、それ自体は実は異例の事ではない。かつてよりその影響力がずいぶん落ちたとは言え、米国にとって、太平洋側の日本は、大西洋側のイギリスと並ぶ主要な同盟国なのである。

日米会談は中国批判の場に

にもかかわらずこの首脳会談が注目されたのは、会談が行われた事自体よりも内容であった。具体的には会談後の共同声明や記者会見で繰り返された中国を名指しで批判する文言である。冒頭の文章はその共同声明の一節であり、両国首脳はこれ以外の部分においても、例えば台湾海峡を巡る問題や、香港やウイグルにおける人権問題、更には南シナ海における活動など、多くの具体的な事例を挙げて中国を批判した。二か国間の首脳会談の共同声明や記者会見においてこれほど多く第三国への言及が為される事は異例であり、それはあたかもこの首脳会談が、中国問題のみを題材としてセットアップされた特殊な首脳会談だと錯覚させる程だった。

背景には言うまでもなく、バイデン政権の強硬な対中姿勢が存在した。注目すべきは、この政権が中国との対立の機軸を、例えばオバマ政権における南シナ海における安全保障問題や、トランプ政権における不公正貿易問題などの個別の問題にではなく、中国との「体制の違い」の上に位置付けた事である。中国はアメリカや日本などの民主主義国とは違う異なる体制と異なる価値観を持っており、その体制とそれを支える価値観こそが「自由で開かれた」世界に対する脅威なのだ。そう訴えるバイデンの姿に、多くの人が「米中新冷戦」の本格的な開始を見る事は自然である。

そして日本の菅首相に遅れる事約1か月、バイデンが二人目の首脳会談の相手として選んだのは、韓国の文在寅大統領であった。敢えて韓国的な表現を使うなら、近年、国際的「位相」を向上させてきた韓国であるが、米国の新大統領が敢えて韓国の首脳とこの早い時期に、そしてこの順序で会談を行うのは、北東アジアにおける新型コロナを巡る状況が例えば欧州における状況より落ち着ていている事が影響しているとはいえ、異例である。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英アンドルー元王子を逮捕 エプスタイン氏巡る不正行

ビジネス

ラガルドECB総裁、職務に専念と同僚らに伝達 即時

ビジネス

アイルランドの法人税収、多国籍企業3社が約半分占め

ワールド

トルコの和平工程表承認、PKK関係者が「重要な一歩
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 3
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 4
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 5
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 6
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 9
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story