コラム

価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

2024年04月17日(水)13時12分

偉大で高額なものに引き付けられるのは、権力者のさがだ。田中角栄が新潟方面に新幹線を引いたことを誰もが知っているように、彼らは名を残したいのだ。でも、電車内の安定したWi-Fi整備を成し遂げた人の銅像が立つことはない。

権力者たちが大プロジェクトに身をささげると、彼らはしばしば「イギリスの威信を示した」「日本に明るい未来をもたらした」などと評価される。批判する人は「破滅商人」「否定論者」として一蹴される。そして、権力者はあらゆる成功は自分の手柄にするのに、失敗はどれも「心の小さい輩(やから)に邪魔された」せいにする。

もちろん、全ての大規模プロジェクトが悪いアイデアだというわけではない。例えばエリザベスライン(2022年開業)は、通勤客や旅行者がロンドンを横断する際に、ターミナル駅で下車して地下鉄に乗り換えて数駅行き、さらに別の線に乗り換える、という手間を解消してくれた。開通が4年以上遅れたのは痛かったが、今やイギリスの全鉄道旅客の6分の1の利用者を誇る路線になった。これは明らかにニーズに合っていた。

一方、ロンドン行きの時間がもう少し短縮されればイングランド北部が一大経済地域になるだろうと見込んで始動したHS2のように、新しい未来を「創造」しようとするプロジェクトとなると、話が別だ。これらは流れに逆らって泳ぐのと同じ。良くも悪くもロンドンとその周辺はここ数十年で、イギリスの他地域をはるかに上回って経済成長と人口増加が進んでおり、この傾向は今後数十年にわたって続く可能性が高い。

人口は減りリモートワークは増えているのに

さて、日本のリニア計画はといえば、映画『フィールド・オブ・ドリームス』式の理屈に従っているようだ――「それを造れば、彼は来る」。でも日本の人口は減少し続けており、世界は一層「リモートワーク」の方向に進んでいる。

さらに言えば、僕たちは(通常は)電車内でパソコンをWi-Fiにつないで仕事をしたり、スマートフォンなどで映画やゲームを楽しんだりして時間をつぶすことができる。旅の時間をわずかに短縮するためのコストが飛躍的に増大しているこのご時世、「高速化の必要性」はどんどん低下している。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の投資家なお強気、ポジショニングは市場に逆風=

ワールド

ガザ和平計画の安保理採択、「和平への第一歩」とパレ

ワールド

中国の若年失業率、10月は17.3%に低下

ワールド

ツバル首相が台湾訪問、「特別な関係を大切にしている
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story