コラム

前回寄稿へのリアクションから、私が今感じること

2016年09月12日(月)11時50分

 当然、後ろ向きな感想も少ないながらも頂戴しました。長年、重い知的障がいを抱えたお子さんを50年近く、成人後もご苦労されながら家族で面倒を見られ、自宅のそばで不慮の事故でなくなった際に「亡くなって良かったんだ」と親御さんがおっしゃったとのこと。礼節をわきまえて書かれていましたのでこちらが不快に思うことはありませんが、誰もが支え合う社会にと言ってもキレイごとでは済まされないとの主旨と思います。

 障がいが重ければ身の回りの危険を察知するのも大変難しくなります。はたから見ればご家族は大変なご苦労をされていたと映ったかもしれませんし、近所の方に実際ご迷惑をかけていたのかもしれません。それでも、「亡くなって良かったんだ」との発言はご家族の本心ではないと思います。逆説的になりますが、手厚いご家族のケアの中で生活をされていたからこそ50年の生涯を全うされたのだと思いますし、子どもを愛おしむ気持ちがないまま、義務感や惰性でそれだけの長期間、身内だけで面倒を見ることはできなかったはずです。むしろ、表向きに「亡くなって良かったんだ」と言わなければならなかったご家族の心情は察して余りあるものがあります。家族が追い詰められていたことはなかったのか。地域の公的ケアを利用することが出来なかったのか。皆で支え合う社会にというのはそうしたことも踏まえてのことです。

 障がいがないに越したことはありません。自分の娘に障がいがなかったらと思うことは私にもいくらだってあります。しかし、だからと言って障がいが「悪い」ことかと言えば、つまるところ、良い・悪いで判断するようなものではなく、所与の事実としてそこに歴然と存在するものであり、それ以上でもそれ以下でもないと言うことに尽きます。

 誤解を承知の上で。障がいと自然災害は似ているところがあります。地震、火山の噴火、台風、落雷等々、一個人としてはどれもできれば遭いたくないものですが、この地球が活動している以上、我々生物がそれを完全に避けて通ることはできません。災害があることを前提に備え、一度遭遇すれば被害を最小限に、復旧復興のために民・官問わず手を差し伸べます。自然災害はないに越したことはありませんが、良い・悪いの判断を超えて、誰もがそこにあるもの、不可抗力として受け止めているはずです。

 多くの障がいもまた、人類が脈々と命のバトンを次世代へと繋ぐ中ではどうしても誰かが引き受けなければならないものです。あなたや私が何不自由なく生活できているのは、人類が背負うべき不可抗力を誰かが代わりに背負ってくれているから。不可抗力はあなたにも私にもふりかかり得る。そんな風には考えられないでしょうか。そうすれば、たまたまそうした重荷を引き受けてくれた誰かへ手を差し伸べることは無駄なことでも、経済効率の悪いことでもなく、そういった範疇をすべて超えて社会として引き受けるのが当然、皆で支え合いながら価値を創造していく社会にと思えるのではないでしょうか。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story