コラム

マイナス金利は実体経済の弱さを隠す厚化粧

2016年02月09日(火)13時00分

 それが正真正銘のゼロパーセントとなったのは1999年2月12日のことでした。「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。」

 とされている通り、そして、その発表会見の際に当時の日銀総裁である速水氏が「ゼロでも良い」と発言したことから、市場が驚いたのはもちろんですが、そこからゼロ金利政策なる言葉が市民権を得たとも言えます。中央銀行の金融政策として金利を動かすことが最早不可能となった段階で資金の供給量を増やす量的緩和策が開始されたのですから、ここから異次元の世界に突入したと言えるでしょう。今回にわかに焦点となった付利(08年10月31日から開始)+0.1%が日銀の当座預金には当時ありませんでした。正真正銘としたのはそのためです。

 当時の日銀当座預金の管理では、企業などに貸出しをせず、余剰資金を日銀の当座に残せば、金利が0%ですから銀行の収益はゼロ。法定準備預金(預金者が預金を引き出すことを想定して、預金の一定割合の現金を手元に置いておく=日本銀行に預ける=日銀当座預金に残高を残すことが民間銀行には義務付けられています)として定められたギリギリの金額をいかに日銀当座預金に積むかが資金担当に課せられた使命でした。

 機会収益を逃すまいと、少しでも高い金利があれば(海外も含め)そちらで運用しようとするのが銀行です。したがって、90年代に法定準備預金で必要とされる以上の金額を日銀の当座預金に積むようなことをすると、決して大袈裟ではなく「無駄金を積みやがって」と資金担当者は罵倒されたものです。現在のように、一金融機関が何千億円も金融機関全体では250兆円もの資金を毎日、日銀当座預金に残すなど当時からすれば隔世の感があるわけですが、この時の無駄なお金という意味合いだけが残り、業界では日銀当座預金に積まれた残高を今でも通称で「ブタ積み」と呼んでいます。

 2000年に入ったころには徐々に貸出し先もなくなり、私の在籍していた中規模程度の米系商業銀行でもすでに数百億円単位の金額を0%で積んでいた記憶があります(外資でも在日支店は日銀当座預金を保有します)。つまり、当座預金に金利が付いているから日銀当座預金の残高が積み上がるわけではなく、適当な貸出先が見つからなければ金利が付いてなくても当座預金の残高は増えるということです。

 また、これまでの金融政策と全く違うという点で言うなら、2002年9月18日に公表された日銀による株式購入もあげられます。当時も今も先進国で中央銀行による株の買い入れをしているのは日本だけですので、異次元と言えるでしょう(ECBの資産購入もカバード債やABSです)。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの

ビジネス

米国株式市場=大幅高、12月利下げ観測で テック株

ワールド

ウ大統領、和平案巡り「困難な選択」 トランプ氏27
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story