コラム

温暖化防止会議COP21、したたかに日本の利益につなげよ

2015年10月23日(金)17時10分

重要さは個別交渉に

 温室効果ガスをめぐって、国際的な削減の合意ができることは、何もないよりは、はるかにましだ。ところが派手な数値目標だけを競い、実効性を伴わない「お祭り」(ビクター博士)になることを、専門家は懸念していた。そして緩やかな削減の合意が全体結ばれた後で、グループごとに主張がまとまり、重要性も個別交渉に移っていくという見通しを世界の有識者は、ICEFで語っていた。

 これは国際貿易交渉に似ている。例えば、全世界一体の関税引き下げ交渉、貿易自由化交渉が1960-70年代に試みられた。ところが交渉は難航した。当事者が多すぎると合意が大変であるためだ。そして今は二国間貿易協定、大きくても太平洋地域を対象にしたTPP、EU域内など、利害関係の緊密な国の貿易交渉が主流になっている。

 同じように温室効果ガスの削減交渉の中心は関係の緊密な少数国グループの個別交渉に移ると、筆者は予想している。会議での専門家らの意見は、それを裏付けるものになった。

技術という日本の強みを活かす

 温室効果ガスの抑制策は、大きく分けて2つある。それは削減を経済活動の強制的に減らすということ、さらに技術革新であろう。エネルギーの効率化、発電技術、またCO2を出さない原子力技術を持つ国は、世界でG20と呼ばれる国々しかないであろう。そして日本はその技術力で世界に貢献できるはずだ。そうした個別交渉では存在感を発揮できるに違いない。

 例えば日本鉄鋼連盟の1単位当たりの粗鋼生産の温室効果ガス排出量は2010年で、日本を1とすると、中国は1.2、米国は1.3となる。鉄の生産では、エネルギーを大量に使うが、日本企業はその効率化を進めてきた。最近元気がない日本の産業界だが、エネルギー効率、技術力では世界の最高水準にある。

 安倍晋三首相も温暖化交渉についてはトップダウンで積極的に取り組んでいる。2013年に打ち出した温暖化政策の基本方針『美しい星への行動』では「革新的技術開発」「技術の国際的普及」「途上国支援によるWin-Win(共栄)とパートナーシップ」を3つの柱としている。技術利用による日本の利益もしたたかに考えている。

 冒頭の例に戻れば、私たちは「地球人」であると同時に、「日本人」でもある。2つを同時に追求することは可能だ。地球温暖化を止めながら、経済的な利益を獲得できる仕組み作りを、政府に期待したい。また、ビジネス活動を通じて温暖化防止活動を通じて利益を得る形を、それぞれの仕事の中で考えていくこともできそうだ。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story