コラム

温暖化防止会議COP21、したたかに日本の利益につなげよ

2015年10月23日(金)17時10分

9月にパリのエリゼ宮でCOP21公式プレイベントが行われた Charles Platiau-REUTERS

 ある2010年に開かれた地球温暖化をめぐるシンポジウムの光景だ。温暖化防止活動をするNPOの女性代表が「温室効果ガスを減らせ。産業界は負担しろ」と、繰り返し主張した。司会者と経済団体の人が「日本の利益を考えて」と言った。すると、その代表は「私たちは『地球人』です。あなたもそう。日本の利益なんてどうでもいい」と断言した。他のパネリストが絶句すると、その代表は憮然とし、シンポジウムの雰囲気がさらに悪くなってしまった。

 今年12月にパリにおいて、COP21(国連地球温暖化防止条約第21回締約国会議)が開催される。その見通しを示してみたい。この国際会議では、どの国も「地球のために」という建前を唱える。ところが実際には負担を他国に押しつけようという、したたかな振る舞いをしている。冒頭のように、過度に国際体制に期待するのは、日本にある不思議な思想の流れだ。

 この会議では2030年までの国際的な温暖化防止対策の枠組みがまとまる見通しだ。事前交渉では、「誓約と審査(Pledge and Review)」という形で、温室効果ガスの削減を行う仕組みになると見込まれる。各国が削減対策を掲げて国連の事務局に提出(誓約)、その実施のチェックを国連に受ける(審査)という形だ。

 温暖化防止対策では1997年のCOP3で決まった京都議定書による国際的な枠組みがあった。体制がある。温室効果ガスの削減数値目標を、条約上の法的拘束力のある形で決めて、ぎりぎりと制約を加える体制だった。しかし、それは結局、うまく機能しなかった。COP21で決まる枠組みは、まったく別のものになるだろう。

 一見すると温室効果ガス削減のために京都議定書のような仕組みは有効に見える。ガスの排出量は、その主なものを占める二酸化炭素(CO2)の排出、つまり化石燃料の使用とエネルギー消費と連動する。CO2の削減はエネルギー消費を減らし、経済活動にブレーキをかける。「トレードオフ」、つまり一つの対策の代わりに、一つの代償を払うことになる。そのために失敗したのだろう。

COP21の次に識者は注目

 COP21では、世界一の温室効果排出量を持つ中国(全体の20%強程度)、第2位米国(同20%弱程度)が合意受け入れを表明し、全世界の温室効果ガス排出分の80%を占める国が削減目標を出している。この「誓約と審査」の形で、合意はまとまりそうだ。

 それでは、交渉の焦点は何か。10月に東京で開かれたICEF(Innovation for Clean Earth Forum)で、世界各国の温暖化政策の有識者の意見を聞く機会があった。識者らは、そろって、COP21の合意の「次の段階」に注目していた。

 現時点で各国が誓約しようとしている数値目標は、厳密に積み上げたものではない。例えば、2030年までに13年度比で26%削減という日本の目標は今、ほとんど動いていない原子力発電の活用や、エネルギー効率の大幅な改善を見込んでのものだ。他国も夢のようなことを言っている。「どの国の削減目標も真剣に検討されたものではない。パフォーマンスだ。COP21は「誓約の氾濫」になるかもしれない」と、米国の共和党政権で温暖化政策のアドバイザーを務めた米カリフォルニア大学のデイビッド・ビクター博士は分析していた。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story