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日本学術会議問題で浮き彫り、日本のSNS「怒りと混乱と分断」のシステム
「日本学術会議」というワードに負の感情を喚起しやすいワード(「反日」、「中国」)を加えてマッピングするとさらに顕著になる。赤は青よりも負の感情を含んだツイートに多く反応し、拡散している。青はそもそもこれらのワードに反応しているアカウントが限られる。赤と青ではこのワードに関して分断されており、見ているもの、気にしているものが異なることがわかる。
これらの図からは、赤=首相判断支持の発言は拡散しやすく、負の感情を含んだ言葉の場合、分断されたグループ内で拡散する傾向がある。典型的なエコーチェンバー現象(自分に近い意見や情報ばかりが集まる空間にいると、自分の意見が正しいものとして強化されていくことを現象)が発生しており、政治的な問題の負のエコシステムが日本に存在するように見える。
なお、今回行ったのはあくまで仮説構築のための整理である。仮説としての妥当性があると考えてよさそうだが、これでなにかが検証できたわけではない。HOAXYの解析能力には制限があり、充分な量のデータを的確(言語解析して類似の意味を持つ表現も含めるなど)に処理するためにはより多くのデータ(ツイッター社に多額の費用を払って購入するか、研究目的で提供いただく)と、解析ツールが必要となる。検証については今後の本格的な研究に期待したい。
最後に負のエコシステムについて、補足説明をしておきたい。
負のエコシステムとは
民主主義国では監視やネット世論操作によって、国内に負のエコシステム「怒りと混乱と分断」ができあがり、それが政権の基盤を支えるようになる。「怒り」(嫌悪や憎しみなど負の感情)は、SNSで拡散しやすいことが、MITメディアラボ(2018年3月9日)、ニューヨーク大学、Pew Research Centerなどのレポートで明らかになっている。
「怒り」を含む投稿が増えると、その拡散力が生む「混乱」が逆検閲(reverse censorship)」(the atlantic、2018年6月26日)をもたらす。逆検閲とは大量の情報で受け手を溺れさせて、正しい情報を見つけられない/判断できない状態に陥らせることを指す。通常の検閲が情報発信を制限するのに対して、逆検閲は情報発信を過大にすることで同じ効果(問題となる言論を見えなくする)を生む。
その結果、アメリカと日本では情報の信頼性よりも利便性(アクセスの容易さ)を優先するようになる傾向が見られた。アメリカでは世論調査会社ギャラップとナイト財団のレポート(2020年9月28日)やPew Research Centerの調査(2018年9月10日)、日本では『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』(日経BP、藤代裕之他)で明らかにされている。
そして、人々は偏った情報空間に入り込み、支持政党の違いによる分断が進む。アメリカでは、支持政党の違いによる政治的意見のギャップは人種、宗教、教育、性別、年齢の違いよりも大きいことが、前掲のニューヨーク大学のレポートやPew Research Centerの調査(2017年10月5日)およびMITメディアラボのLaboratory for Social Machinesの分析(2016年12月8日)で明らかになっている。
そうなると同じ国あるいは地域に住んでいてもふだん接している情報やコミュニケーションを取っている相手が異なるため、見えている世界も異なってくる。見えている世界が違えば、意思の疎通が困難になるのは当然の帰結だ。
政策の内容ではなく心情あるいはアイデンティティで政権を支持するようになれば、野党や市民団体が政府を批判に対して支持者は自分のアイデンティティが攻撃されたと感じて反発するようになる。理性的、論理的な反論や問題提起は意味をなさなくなり、むしろ結束を強くすることもある。
誤解のないように申し上げると、これらは政党あるいは政権基盤を盤石にするために行われることであり、ネット世論操作のもたらす予想外の弊害ではないのである。アメリカでは、こうしたアプローチが意図的に用いられている。日本ではどこまで意図的か不明だが、結果として負のエコシステムができている可能性がある。
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