コラム

戦隊ヒーロー映画『パワーレンジャー』はイスラエルも守る?

2017年09月04日(月)16時22分

プロデューサーのハーイーム・サバーンの名がハリウッドの「ウォーク・オブ・フェイム」に加わることになり、パワーレンジャーのコスプレをするファンたち Mario Anzuoni-REUTERS

<日本の特撮戦隊ヒーローから生まれたアメリカの「パワーレンジャー」は湾岸諸国の子供たちにまで人気だが、実は中東と深く関係している>

7月15日に米国製映画『パワーレンジャー』が日本でも公開となり、それなりにヒットしているらしい。この映画が日本の特撮戦隊ヒーローものを換骨奪胎したことはよく知られている。

わたしは世代的に上なので戦隊ヒーローもパワーレンジャーも同時代的には見ていないのだが、1990年代からアラブ諸国に出張にいくたびに、街のおもちゃ屋などでパワーレンジャーのおもちゃがどんどん増殖していくのには気づいていた。とくに湾岸諸国では、子どもの世界であっても、米国の流行がすぐにそのまま波及することが多いので、米国でのパワーレンジャー人気と湾岸諸国でのパワーレンジャー人気はほとんどタイムラグがなかったといっていいだろう。

今、ハリウッド映画を無理やり中東と結びつけたように思われたかたもいるかもしれないが、実はパワーレンジャー、もともと中東と深く関係しているのをご存じだろうか。今回の映画は当初、プロデューサーの名前をとって「サバーンのパワーレンジャー」と呼ばれていた。

「サバーン」とは実は人名で、正しくは「ハーイーム・サバーン」。米国でもっとも有名なテレビや映画のプロデューサーの1人であり、フォーブス誌によると、その資産は29億ドルにのぼるという(2017年)。

彼は1944年にエジプトのアレキサンドリアで生まれ、1956年には一族とともにイスラエルに移住している。ここからもわかるとおり、ユダヤ人であり、イスラエルと米国の二重国籍者である。

1956年にエジプトを離れたのは、もちろんこの年、第二次中東戦争、すなわちスエズ動乱が起きて、エジプトとイスラエルが戦ったためだ。このとき、エジプトにいたユダヤ人の多くはエジプトを離れ、イスラエルや欧米などに移住している。サバーン家もおそらくそうしたユダヤ人家族の1つだったと思われる。

なぜ、彼が日本の戦隊ヒーローに魅せられたのかははっきりわからないが、すでに80年代から日本のアニメの英語版制作に関わっており、おそらく早い段階から日本のコンテンツには関心をもっていたのだろう。

パワーレンジャーはもともと1992年から放映された『恐竜戦隊ジュウレンジャー』を下敷きにしている。Wikipedia日本語版「パワーレンジャー」の項目には、当初この「ジュウレンジャー」のタイトルで放送するはずだったが、冒頭の「ジュウ」が侮蔑的なニュアンスでユダヤ人を意味する「Jew」を連想させるため、「パワーレンジャー」に変更になったと述べられている。

残念ながら、その説を立証する記載は見つけられなかったが、インターネット上にはたしかに「ジュウレンジャー」の「ジュウ」を「Jew」と結びつける英語の言説がいくつも散らばっている。なお、ジュウレンジャーの敵方の雑魚キャラにゴーレム兵というのが登場するが、これは、ユダヤ教の神話に登場する自動で動く泥人形のことであり、日本語オリジナル版にもユダヤの影響を垣間見ることができる。

【参考記事】「白くない」エミー賞に、アラブの春を思い起こす

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、日本企業に軍民両用品の輸出禁止 三菱重や川重

ワールド

中国春節の鉄道旅客、前年比+11.5% 海外旅行は

ワールド

中国商務省、米国に関税撤回を要求 新たな貿易協議を

ワールド

一般教書演説、イラン・関税が焦点 トランプ氏「経済
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 5
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 6
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 7
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 8
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story