ニュース速報

ワールド

アングル:スト参加すればアプリが「自動処罰」、米労組は反発

2023年07月22日(土)08時12分

7月18日、 夏のかき入れ時が始まったばかりのタイミングで従業員の大規模なストライキに見舞われた米カリフォルニア州のホテル業界は、対抗手段を見つけ出した。写真は2日、ロサンゼルスのホテル前でストライキを訴える従業員ら(2023年 ロイター/David Swanson)

[ロサンゼルス 18日 トムソン・ロイター財団] - 夏のかき入れ時が始まったばかりのタイミングで従業員の大規模なストライキに見舞われた米カリフォルニア州のホテル業界は、対抗手段を見つけ出した。それはギグワーカー(単発仕事を請け負う労働者)の求人アプリを通じた人員手当てだ。

このアプリに登録した労働者がストに参加すれば、自動的に評価引き下げやシフト取り消しといった「処罰」が行われる仕組みで、組合側は労働者の権利侵害だと反発を強めている。

ロサンゼルス地域の接客業の働き手を代表し、賃上げや待遇改善を要求するストを呼びかけた労働組合ユナイト・ヒア・ローカル11の共同プレジデントを務めるカート・ピーターセン氏は「これらのアプリは組合活動に加わる労働者を問答無用で処罰している。こんなことは初めてだ」と憤る。

ユナイト・ヒアによると、ロサンゼルス地域で少なくとも6つのホテルがスト期間に人繰りのためにギグワーカー求人アプリを利用したもようだ。

先週ユナイト・ヒアは全米労働関係委員会(NLRB)に対して、ホテル側が使ったこうしたアプリの1つであるインスタワークの処罰機能が「不当労働行為」に該当するとして救済の申し立てを行った。

申請書によると、南カリフォルニアのダナ・ポイントにある「ラグーナ・クリフズ・マリオット・リゾート・アンド・スパ」では、インスタワークで応募してきた働き手がストに参加した時点でシフトをキャンセルされたが、そうした自動的な処理システムは労働者の権利行使を妨げるものだという。

この申し立てについてインスタワークに問い合わせると、係争中の法的案件へのコメントは控えるとした。広報担当者は、労働者が法的に守られている活動に関与しても、それが政治的であろうが、組合活動であろうが、報復行為に及ぶことはないと述べた。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校で労働史を研究するトビアス・ヒグビー氏は、経営者がギグワーカー求人アプリを利用するのは合法だが、それで補充された労働者にもストを組織し、関与する権利があるとの見方を示した。

同大学ヘイスティングス・ロースクールのビーダ・デュバル教授(労働関係法)は、今回の事案について、米国の労働法がコンピューターによって自動的に侵害される過去に例がない問題だと指摘した。

<ロボット扱い>

南カリフォルニアの元ホテル従業員らは、今月末で主要ホテルと交わした労働協定が期限切れとなるのを控え、6月初めにストを実施することを投票で決定。4日の独立記念日の週末からストに突入したところで、すぐに代わりの人員が派遣されてきた。

ロサンゼルス郡エルセグンドの別のマリオット・ホテルの清掃員でストに加わったジェイミー・モラレスさん(38)は「新しい働き手が各ホテルに顔を見せ始めたのが分かったが、どこからやってきたかは知らなかった。まるで私たちはロボットのように置き換えられた感じがする」と語った。

一方、業界団体のロサンゼルス・ホテル協会の広報担当者は、スト中もホテルは営業を続ける準備をしなければならないと主張し、各ホテルは自然災害や公衆衛生上の脅威などと同じく、労働争議に備える計画を有していると付け加えた。

エルセグンドのマリオット・ホテルに派遣されたギグワーカーの1人はトムソン・ロイター財団に対して、インスタワーク経由で12日からシフトに入ったと明かした上で、ストをやっていることは全然知らなかったと話した。「スト参加者を応援はする。でも私はお金を稼ぐ必要がある」という。

<急拡大する業界規模>

市場調査会社スタッフィング・インダストリー・アナリシス(SIA)の見積もりに基づくと、アプリを使ったギグワーカー派遣業界の規模は過去2年間で4倍以上に膨れ上がり、売上高は210億ドル余りに達している。

SIAのバリー・エイシン社長は、これはストだけでなく工場生産のピークや特定のプロジェクト作業向けなど多様な理由から望ましい時期や時間に合わせて適宜人材を派遣する事業で、ウーバーやリフトといった配車サービスから学び、アルゴリズムを駆使するとともに、労働者に働く経験をある種のゲームとして提供していると解説する。

例えばインスタワークの場合、利用者はシフトをどれだけ多くこなしたかを基準としてさまざまな色のバッジを獲得することができ、各労働者には5つ星形式の評価が付けられる。

ただユナイト・ヒアのNLRBに対する申請書によると、既に接客業で働く一部の人々はスト参加に伴う自動処罰の洗礼を受けた。

ロサンゼルスで正社員のポジションと住宅を探す間のつなぎとしてインスタワークでホテルでの清掃と皿洗いの仕事を見つけたトーマス・ブラッドレーさん(40)は、今月初めストに合流すると、職場にこなかったとみなされてこのアプリにおける評価が下がり、数日にわたって予約していたシフトが自動的に取り消された、と電話で明かした。

それから数日後には、ブラッドレーさんにインスタワークからアカウントを1週間停止する旨が通知されたという。

現在ホームレスになって車で寝泊まりしているブラッドレーさんは「私はぎりぎりの生活をしているが、スト破りに自分が利用されるのは嫌だった」と振り返った。

ユナイト・ヒアの説明では、14日にトムソン・ロイター財団がインスタワークにブラドレーさんのアカウント停止に関するコメントを要請した数時間後には、この措置は解除された。

それでもトムソン・ロイター財団が今月、ワッツアップのグループメッセージを閲覧したところでは、ロサンゼルス地域のインスタワーク経由で仕事を得た人たちの間から、スト中の代替人員として職場に行く選択をしない限り、アプリ内の評価を下げられてしまうと不安視する声が出ていることが分かった。

シカゴの派遣労働者団体テンプ・ワーカー・ジャスティスのディレクター、ロバート・クラーク氏は「このような状況における人員手当てでギグワーカー求人アプリの利用がどんどん拡大している。しかし労働者にもこの種の仕事の割り振りを拒否する権利があるはずだ」と強調した。

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税でインフレ長期化の恐れ、輸入品以外も=クーグラ

ワールド

イラン核開発巡る新たな合意不成立なら軍事衝突「ほぼ

ビジネス

米自動車関税、年6000億ドル相当対象 全てのコン

ビジネス

米、石油・ガス輸入は新たな関税から除外=ホワイトハ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中