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アングル:ウクライナ悩ます人口減少問題、戦争終結後も経済に打撃か

2023年07月11日(火)19時10分

 7月7日、ウクライナ戦争が長引く中、同国から欧州各国に逃れた難民数百万人の一部は、今暮らす国への定住を考え始めている。写真はスペイン・マドリードで、ウクライナ文化を取り入れた服を見せる、キーウ出身のデザイナー、クセニア・カーペンコさん。6月23日撮影(2023年 ロイター/Juan Medina)

[キーウ 7日 ロイター] - ウクライナ戦争が長引く中、同国から欧州各国に逃れた難民数百万人の一部は、今暮らす国への定住を考え始めている。

テレビディレクターで2人の子どもの母でもあるナタルカ・コルシュさん(52)は、首都キーウ(キエフ)に建てたばかりの夢の家を戦争初期に後にした。ポルトガルに慣れ始めたばかりではあるが、ウクライナで戦闘が終わっても再び居を移すつもりはない。

「52歳の今、ゼロから始めなければならない」と語るコルシュさん。ポルトガルに慈善団体を設立し、今では「家」と呼ぶラゴアの町で他の移民を助けたいと考えている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調査によれば、国外に逃れたウクライナ人の大半はいつか帰還したいと考えているが、すぐに帰還する予定があるのは10人に1人程度。過去の難民危機、例えば、シリアでは難民の帰国願望は時間とともに薄れていったことを、UNHCRの調査は示している。

ロイターが取材した企業トップ4人は、多くの難民が帰国せず、労働人口が今後何年も減少し続ける可能性を見据えて格闘していた。この状況は、人口統計学者と政府も悩ませている。

ウクライナ有数の製薬会社であるファルマクは戦争の前年に3000人近い従業員を抱え、売上高は70億フリブナ(約272億円)を超えていた。

ボロディミール・コスティウク最高経営責任者(CEO)は、多くの人々が海外に流出したり、ウクライナ国内で避難生活を余儀なくされたり、軍隊に徴兵されたりしたため、有能な研究所での労働者や製造専門家の不足に直面していると語った。

「この人々をなんとかウクライナに戻らせる必要がある。海外に長くいればいるほど、戻りたいと思わなくなるからだ」とコスティウク氏は言う。

ウクライナのシンクタンク、経済調査政治研究所が同国企業約500社を対象に行った調査では、3分の1が人材不足を重要な課題と考えていることが分かった。

徴兵年齢の男性はウクライナからの出国が制限されているため、難民の大半を占めるのは働き盛りの女性や子どもたちだ。

農場や工場は、徴兵によって労働者を失っている。一方、国外に脱出する可能性が最も高いのは教育を受けた若い女性であり、高度な教育や訓練を必要とする産業で、特に深刻な人材不足を招いている。

ウクライナのシンクタンク、経済戦略センターが今年3月に発表した調査によると、欧州の他の国々に避難した女性の3分の2は高等教育を受けている。

労働人口の減少は、長期的に消費需要にも打撃を与える。

大手スーパーマーケットチェーンを運営するフォジー・グループは、戦争初期にロシア軍がキーウ周辺から撤退すると、この地域で店舗を再開した。

だが、客足は今も鈍い。新商品担当の取締役は「数百万人の人々が何も買わなくなり、国から去ってしまった現状では、回復について語れない」と言う。

<男性も脱出か>

ウクライナの人口問題は、数百万人の難民だけにとどまらない。国立科学アカデミーの人口学者、エラ・リバノバ氏は、ウクライナは高齢者の割合が大きく、かねて世界で最も低い水準だった出生率は戦争が勃発して以来、0.9から0.7に低下したと説明した。

100万人がロシア軍と戦っており、さらに数百万人がロシアに占領された地域に住んでいるか、ロシアに強制移動させられた。ウクライナ政府は死傷者の数を公表していないが、4月にリークされた米情報機関の推計値では、労働年齢の男性1万5000人が死傷したと考えられる。

リバノバ氏はまた、戦時中の男性の出国規制が解除されれば、多くの男性が外国で家族と一緒に暮らすようになる可能性があると警告。「大きなリスクは、男性が国外に出て行ってしまうことだ。若く、有能で、進取の気性に富み、教育を受けた人々を失うだろう。それが問題なのだ」と語った。

現在、ロシアは国内の約5分の1を占領している。リバノバ氏は、ウクライナが支配する地域の人口は、侵攻前の政府推計の4100万人から、既に2800万人にまで減少していると見積もっている。推計では2014年にロシアに併合されたクリミアは除外されており、この地域の同年初頭の人口は約200万人だった。

戦争以前から、ウクライナの人口は減少していた。

1991年の独立当時、ウクライナの人口は約5200万人だった。2001年に1度だけ行われた国勢調査では4850万人だ。

欧州連合(EU)欧州委員会の共同研究センターが3月に発表した調査によると、戦闘がいつまで続き、どれだけの人々が海外に移住するかにもよるが、ウクライナの人口は今後30年間でさらに約5分の1ないし3分の1減少する見通しとなっている。

<経済的損失>

政府は現在の人口を公表していない。ロシア、ベラルーシ、ロシア支配地域にどれだけの人口がいるのかが不確実なため、最良の推計値でさえ大きな誤差を伴う。

人口学者のリバノバ氏は、ウクライナ支配地域の今年初頭の人口を2800万人から3400万人と推定している。

経済戦略センターは、EU諸国の難民1000人以上を対象とした今年2月の世論調査に基づき、86万人から270万人のウクライナ人が永久に国外に留まる可能性があると推計した。その結果、ウクライナ経済は年間の国内総生産(GDP)の2.55─7.71%を失う可能性があるという。

ただ、政府はロシアによる侵略後に愛国心が急激に高まったことを理由に、難民の帰国をもっと楽観視している。オレクシー・ソボレフ経済副大臣は最近の円卓会議で、戦闘終結から3年以内に難民の最大75%がウクライナに戻るとの見通しを示した。

(Olena Harmash記者)

ロイター
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