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アングル:シンガポールLGBT界に変化、同性愛合法化で安心感

保守的な都市国家のシンガポールで今、同性愛に対する寛容な姿勢が広がりつつある。写真は地元パブでの仕事前に準備をするイェオ・サム・ジョーさん。シンガポールで15日撮影(2023年 ロイター/Edgar Su)
[シンガポール 25日 ロイター] - シンガポールの女装パフォーマー、イェオ・サム・ジョーさんは、ピンクのスパンコールが散りばめられたドレスに真珠のネックレスを着け、ばっちりお化粧を施して舞台に出るとき、以前よりずっと自信と安心を感じるようになった。
保守的な都市国家のシンガポールで今、同性愛に対する寛容な姿勢が広がりつつある。昨年11月に男性間の性行為を禁止する刑法の条項が撤廃されたおかげだと、LGBTコミュニティーや学界の関係者らは話す。
「写真を撮る人がいても私は止めたりしない。仕事をして、パフォーマンスをする。それだけ」と語るイェオさんは、「ジョージョー・サム・クレア」の芸名で舞台に立つ。
「『うわー、おもしろい格好』、『へー、変わった格好』って感じの視線を感じることもあるけど、嫌なことを言われたりされたりしたことはない」と話し、タクシーに飛び乗ってショーへと出発していった。
シンガポールでは植民地時代の条項「377A」により、男性同士の性行為は違法だった。しかし活動家らの長年の運動を受け、議会は昨年これを撤廃した。女性の同性愛行為はこの法律でカバーされていない。
条項撤廃前、男性と「ひどいわいせつ行為」を行った男性は2年間の禁錮刑を下される可能性があった。もっとも政府は2007年、今後はこの法律を執行しないと表明した。
当局は、同性愛をライフスタイルとして提唱すべきではないとして、ゲイフェスティバルを禁止し、同性愛に関する映画を検閲していた。
377A条項の解除は歴史的な出来事だが、LGBTの人々から全面的に歓迎されているわけではない。議会は同時に憲法を修正し、諸外国で同性婚の法制化へとつながった訴訟を阻止したからだ。
社会学者のラーバンヤ・カシラベル氏は、法律の変更は人々の意識を変化させることができると指摘。特に「政府が強権を持ち、何が受け入れられて、何が受け入れられないかの線引きを行うことが多い」シンガポールのような国では、意識変化につながりやすいと語った。
「377Aの撤廃は、社会的・政治的背景が変わったことを示すトップダウンのシグナルと解釈されるかもしれない。つまり、必ずしも撤廃に賛成していない人々であっても、今後は(LGBTの人々の)自認を尊重し、認めなければならないということだ」とカシラベル氏は話した。
撤廃は万人に歓迎されたわけではなく、教会連盟は「同性愛を祝福」する「極めて遺憾な決定」だと批判した。
政府は社会のバランスを維持し、伝統的な家族の価値観を支持しながらも全員が社会に貢献できる余地を認めるべきだと強調している。
<話しても安全>
最近までは考えられなかったような変化が、目に見えて起こっている。
保守的で政府方針に従順なことで知られる国内メディアで、LGBT問題が取り上げられるようになったのだ。
政策研究所のキャロル・スーン氏は、メディアが「価値観と信念を巡る緊張や差異について、オープンに取り上げるようになった」と言う。
シンガポールのイスラム教協会は今月、教師に対して「知恵と優しさ、思いやり、慈悲をもってLGBT問題を含む社会・宗教問題に対処する」よう勧告した。
週末に開催されたLGBTの権利を主張する年次集会、「ピンク・ドット」には、大勢の群衆が集まった。ただ、政府の規則により外国人の参加は認められておらず、主催者は外国企業をスポンサーとして受け付けてはならない。
ゲイの兄弟を応援するため、24日の集会に参加していたニシャンシー・バラサミーさん(34)は「この1年間、LGBTQだと知られることを恐れず自分の好きな格好をする人が多くなってきた。シンガポールでは女装ショーが大幅に増えている」と語った。
「最近は随分オープンになった。(LGBTの人々は)性自認について、前よりずっと居心地良く感じ、自信を持っている」という。バラサミーさん自身は異性愛者の女性だ。
女性の権利についての著名な活動家、コリンナ・リムさんは今月、950人が集まる政策会議で、自身がレズビアンであることを告白した。シャンムガム内相兼法相との討論会でリムさんは「377A条項の撤廃と一部関係していると思うが、以前に比べ、このことについて安全に語れるようになったようだ」と話した。
レズビアン活動家であるカリー・チアさん、チン・チアさんの2人は最近、インスタグラムで赤ん坊をもうけたと発表した。チンさんは、「条項撤廃のおかげで勇気が増した気がする」とし、社会が自分たち家族を受け入れる態勢になったようだと語った。
ただ、LGBTの人々にとって全てがバラ色になったわけではない。
結婚は男性と女性の間のものである、という定義を変えられるのは議会だけであり、LGBT家庭は住宅入居などの際に不利益を被るからだ。
ピンク・ドットの広報担当者、クレメント・タン氏は「社会の姿勢が目に見えて変化」したことを歓迎するが、課題は残ると指摘。「われわれの家族は『普通のシンガポール人』と同じ権利と保護に値しない、というメッセージを今なお受け取っている状態だ」と語った。
(Xinghui Kok記者)