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焦点:中国が狙う台湾中間線「無実化」、注目される米国の対応
8月26日、台湾海峡に設けられた「中間線」はこれまで70年近く、地域の平和維持に貢献してきた。写真は16日、中国福建省に近い、台湾・ 馬祖列島の南竿島沖を航行する台湾の沿岸警備艇(2022年 ロイター/Ann Wang)
[台北 26日 ロイター] - 台湾海峡に設けられた「中間線」はこれまで70年近く、地域の平和維持に貢献してきた。しかし、近代化された中国海軍が勢力誇示の動きを強めるとともに、中間線の存在する意味は薄れる一方となっている。
中間線は、中国と台湾の敵対意識が最高潮に達した1954年、米国のある将官が設定したとされる。中国政府は正式にこれを認めたことはないものの、人民解放軍は一応尊重する姿勢を見せていた。
だが、今の状況に目を向ければ、台湾側は自分たちの艦艇よりずっと大きな中国の軍艦が恒常的に中間線を越えてくる事態に備えなければならなくなっている。中国海軍のこうした行動は、3週間前のペロシ米下院議長による台湾訪問に反発した政府の抗議姿勢の一環とみられる。
台湾政府の安全保障計画に詳しいある高官は「中国側は圧力を高め、最終的にわれわれが中間線を放棄するのを望んでいる。彼らは、中間線放棄を既成事実化したいのだ」と述べた。
また、複数の高官は、中間線が提供している安全保障上のバッファーという考え方を台湾が捨ててしまうのは「不可能だ」と力説する。
呉釗燮・外交部長は今月の会見で、現状の変更は許容できないと主張。「われわれは同志国と手を携え、中間線維持に万全を期して台湾海峡の平和と安定を守る必要がある」と訴えた。
<警戒強める台湾>
先の台湾政府高官は、中国軍が12海里の台湾領海に侵入すれば軍事的対応をしなければならないが、それ以外の場合は台湾の軍ないし沿岸警備隊に、より強力に行動する権限を直ちに与えるつもりはないと説明した。
蔡英文総統はこれまで、台湾は挑発も対立をエスカレートさせることもしないと繰り返している。
一方、台湾は中国軍の中間線超えを阻止するのに十分な国際的支援を得られるのか、あるいは台湾の友好国が中間線維持を手助けしてくれるのかには、疑問の余地がある。
米国や他の西側の艦艇は台湾海峡を通航し、ここが海洋法で定められた国際海峡である点を強調しているとはいえ、法的な根拠がない中間線を厳密に守らせようとしているわけではない。
台湾海峡の最も狭い場所では、中間線から台湾領海までの距離は約40キロ。台湾側は、領海のすぐ近くで中国海軍が影響力を定着させれば、台湾軍が極度の緊張を強いられるとともに、中国による海上封鎖や台湾侵攻がずっと容易になってしまう、と警戒感を抱く。
最終的に中間線の存在がうやむやになれば、米国が長らく中国近海、いわゆる第1列島線に沿って築いてきた軍事的優位も脅かされ、中国の太平洋への戦力投射能力を高めかねない。
中国はずっと中間線を戦術的な立場から事実上受け入れていたが、2020年に外務省の報道官が「存在しない」と明言。国防省と国務院台湾事務弁公室も同調した。
ここ数日は、中国と台湾のフリゲート艦や駆逐艦が互いに追跡行動を実施。中国艦艇は台湾艦艇の隙を突いて、中間線を越えようと動き回っている。
今月に入ると、中国空軍の戦闘機も中間線を越えるようになった。短時間の出来事とはいえ、過去にそうした動きは滅多に見られなかった。
<米政府は深刻視せず>
台北のシンクタンク「国家政策研究財団」の安全保障分析専門家は、中間線という暗黙の合意が崩れ、偶発的な衝突のリスクが高まっていると指摘。台湾の軍と沿岸警備隊は中国軍からのより複雑な挑戦に対応できるよう、権限を拡大して法的保護を強化する方向で見直されるべきだとの考えを示した。
数週間以内には、米国の軍艦が再び台湾海峡を通航する予定になっている。ただ、米艦艇が中国艦艇の中間線越えに異を唱えるとは期待できない。
3人の米政府高官は、中国による中間線越えは戦術面で大した意味はないと一蹴。そのうちの1人は、ロイターに「中間線は象徴的な仮想のラインで、(中国が)台湾を少しばかり侮辱しているだけの話だ」と語った。
これらの高官によると、米国は中間線を絶対に維持する、ないしは中国の行動を中間線より自国側に押し戻すといった必要性をほとんど感じていないという。
米海軍大学院の学者、クリストファー・トゥーミー氏は中間線について、米海軍は法的な仕組みというより、あくまで「政治的なこしらえ物」とみなしていると断じた。
トゥーミー氏は、その危険性を過大視すべきではなく、台湾海峡は国際海峡として今後も承認され、利用されると予想。中国が人為的に引かれたラインの両側で行動しただけで、何らかの軍事作戦につながる公算は乏しいと述べた。
(Yimou Lee記者、Greg Torode記者)